日本大百科全書(ニッポニカ) 「腎腫瘍」の意味・わかりやすい解説
腎腫瘍
じんしゅよう
腎臓の実質細胞から発生する腎細胞癌(がん)で、90%が悪性である。副腎腫、腎癌、腎腺(じんせん)癌、グラビッツ腫瘍などは、いずれも腎細胞癌の同義語である。ほかに、きわめて悪性度の強いウィルムス腫瘍があり、これにも腎芽細胞腫、胎生腫などの同義語がある。ウィルムス腫瘍の95%は小児に発生するが、まれに成人にも発生する。そのほか悪性腎腫瘍として扱われるものに腎盂(じんう)癌がある。これは腎盂の移行上皮から発生するもので、尿管や膀胱(ぼうこう)へ管内性に進展しやすい。
良性腫瘍には、腺腫、線維腫、血管腫と、大きくなるタイプの血管筋脂肪腫さらにオンコサイトーマoncocytoma(膨大細胞腫)がある。これらは組織像は良性であるが、血管筋脂肪腫では血管腫の部分が破裂して大出血することがある。
もっとも発生頻度の高い腎細胞癌についてみると、50歳以後に多く発生し、男性は女性より2倍も多い。腫瘍は一般に被膜に囲まれた黄色くて硬い均一なもので、ときに出血や壊死(えし)を伴う。病理組織学的には顆粒(かりゅう)細胞型、透明細胞型、混合型があり、多くは細胞質の明るい核の異型性の少ない透明型である。臨床症状の三大徴候は、血尿、側腹部の腫瘤(しゅりゅう)、側腹部の疼痛(とうつう)とされるが、実際には典型的に示す例は少なく、骨や肺に転移したための症状で発見される。ときに発熱や血清カルシウムの増加、また4%に赤血球増多症がみられる。1990年ころからは定期的健康診断の際に、腹部の超音波検査で偶然に発見される症例が増えている。このような症例は偶発癌とよばれ、一般に直径4センチメートル以下の小さな癌である。診断には、超音波エコーのほか排泄(はいせつ)性尿路撮影で腎臓に腫瘤が疑われること、CTスキャン、MRI(核磁気共鳴診断法)が行われる。大きな腫瘍では腎臓の静脈内に向かって癌が発育進行し、下大静脈内にも入りこんで腫瘍血栓をつくることがある。普通、初期の腫瘍でも手術で周囲の脂肪も含めて取り出す根治的腎摘出術が行われる。1キログラムほどの巨大な癌でも腎内にとどまっているものであれば、動脈塞栓(そくせん)併用の手術療法で完全な治療が期待できる。また、すでに肺などに転移していても、腎臓にある原発の癌を摘出した後、インターフェロン(ウイルス抑制因子)やインターロイキン2(癌細胞を殺したり免疫力を高めるT細胞を増殖させる因子)の免疫治療を行うと、転移巣が縮小・消失することがある。なお、小児のウィルムス腫瘍は放射線に感受性を有し、しかも各種の抗癌化学療法剤、とくにアクチノマイシンD、ビンクリスチンが有効である。
[田崎 寛]