腸管虚血

内科学 第10版 「腸管虚血」の解説

腸管虚血(腹部血管疾患)

(1)腸管虚血(mesenteric ischemia)
 腸管虚血は急性腹症の約1%とまれな疾患だが,迅速な診断・治療の可否予後を決定する.閉塞性が80%,非閉塞性が20%を占める.
a.閉塞性腸管虚血(occlusive mesenteric ischemia)
ⅰ)上腸間膜動脈閉塞
概念・原因
 塞栓症と血栓症に大別される.塞栓症の原因は心原性血栓が多い.血栓症は動脈硬化性病変を基盤とし,腹部アンギーナ(上腸間膜動脈の血流量不足で食後数十分に生じる腹痛)の既往が多い.
臨床症状・診断・治療
 腹痛で発症するが,初期には強い腹痛のわりに腹部所見に乏しいのが特徴である.発症直後から小腸蠕動が停止し,麻痺性イレウスとなる.初期には腹部膨満や血便がないこともあり,採血検査も特異的変化はない.病期の進行に伴い,代謝性アシドーシス,CPK上昇や,腹膜刺激症状が出現してくる. 診断には造影CTが有用で,上腸間膜動脈・分枝内の造影欠損,腸管壁・腸間膜の造影不良・欠損,上腸間膜動静脈の口径差逆転(smaller SMV sign)が典型的所見である. 早期診断できれば,腹部血管カテーテルからの血栓溶解療法,血栓破砕・吸引療法,血管形成術,ステント留置術などが選択される.早期診断できなければ,緊急手術で血行再建を行うが,壊死した腸管はすべて切除となり,予後不良である.
ⅱ)上腸間膜静脈・門脈閉塞
概念・原因
 静脈系還流障害に伴ううっ血,血流停滞により虚血を生じる.原因のほとんどは血栓症である.多くは血栓性素因を有し,過凝固状態にあるか,門脈圧亢進を合併している.
臨床症状・診断・治療
 腹痛,悪心・嘔吐,排便回数増加,血便などを生じるが,動脈閉塞に比べると腸管梗塞は少ない.造影CT,MRI,血管造影で腸間膜静脈内に血栓を認めれば確定診断となる.治療は血栓溶解療法や抗凝固療法を行うが,腸管梗塞に陥った場合は手術となる.
b.非閉塞性腸管虚血(non-occlusive mesenteric isc­hemia:NOMI)
概念・原因
 心血管イベントに伴う心拍出量低下や循環血液量減少により,末梢腸間膜血管の攣縮が起きて発症すると考えられ,ジギタリス利尿薬,β遮断薬などの薬剤もリスクとなる.
臨床症状・診断・治療
 腹痛のほか,腹満,悪心,下痢を生じる.造影CTで上腸間膜動脈起始部・本幹の開存にもかかわらず,分枝の狭小化,末梢の造影欠損と腸管壁の造影不良が散見される.腹部血管造影ではstring-of-sausages sign(攣縮と拡張が交互に並びソーセージ様となる)が特徴的である.治療は血管拡張薬を持続動注するが,腸管壊死が疑われる場合は手術となる.基礎疾患があるため,予後不良である.[矢野智則]
■文献
嶺 貴彦,田島廣之,他:ER必携 腹痛の画像診断 急性腹症の画像診断 血管性病変.画像診断,28: 1320-1333, 2008.
宗景匡哉,花崎和弘:肝・胆道系症候群(第2版)その他の肝・胆道系疾患を含めて肝梗塞.日本臨床(0047-1852) 2010. 10;別冊(肝・胆道系症候群 第2版);99-102.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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