改訂新版 世界大百科事典 「自在かぎ」の意味・わかりやすい解説
自在かぎ(鉤) (じざいかぎ)
囲炉裏(いろり)の火に対して鍋釜の高さを自在に調節できるかぎをいう。最も原初的な形のものはマツカギなどといわれる又状の木を棟木からつるしただけのもので,出作り小屋などで最近まで使われていたが,高低は調節できなかった。次に厚板にのこぎりの歯のような刻みをつけたかぎに改良され,刻み目の数だけは自由に上げ下げできるようになった。この板かぎ形式のものはガンダカギといわれ,東北地方に多くみることができ,アイヌもこれを用いていた。これらに対し,自在かぎは〈小猿(こざる)〉という横木につり縄をつけて自由にかぎの高さを調節できるようになった。この横木は小猿のほか,チョウジ,コバシリ,コザリともよばれ,もとは単なる板きれであったが,のちに魚や扇の形に彫られたものが登場した。魚形の横木はとくに〈北向き鮒〉とか〈入り鯛〉と称し,俗に〈出鉤入り魚〉というように先端のかぎは家の入口に,魚の頭は逆に家の奥に向けるものとされた。自在かぎは火の神の依代(よりしろ)と考えられ,カギドノ,カギサマなどの敬称でよばれた。自在かぎに一文銭や杓子を結いつけて眼病よけや火伏せの呪としたり,失(う)せ物をした際には〈猿頼もう〉といってかぎの小猿などを紐で結わえると出てくるという。また,正月の初灸には最初にかぎのハナから灸をすえるといい,節分には煙出しから悪鬼が侵入せぬようにかぎに柊に鰯の頭をさしたものを結いつける家もあった。自在かぎは,囲炉裏の消滅とともに,見かけることも少なくなった。
執筆者:飯島 吉晴
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報