( 1 )中世からイロリ・イルリ・ユルリの形で文献に現われる。日葡辞書にもこの三形が見え、用例(~ヲ切ル)はユルリにのみ記されている。写本と版本との間で新語形(口語)と伝統形(文語)の対立が認められる傾向があるという「甲陽軍鑑」において、写本・版本の両方にイロリ・イルリが共に見られることからも、口語・文語とも語形にゆれを生じていたことがうかがわれる。
( 2 )近世以降「囲炉裏」の漢字表記が一般化するにつれ、イロリが標準語形としての位置を獲得したものと思われる。
農民の日常生活における中心的空間に設置された火所である。暖房,煮炊き,乾燥,照明などの機能を持ち,家族の成員の位置づけもその座席に示される。おそらく地面に設けられた,竪穴式住居にみられる炉が,高床式の住居になっても受け継がれたものであり,イロリとかユルリなどと呼ぶのは,〈居(い)る〉という生活様式の表現をもとにした古い言葉であろう。暖房機能としては,人間がここにいるときは火をたき続けるが,寝るときも火は灰の中に埋めておくのが一般である。煮炊きの機能としては,イロリの上の天井部分から自在かぎをつるして,鍋などの高低を調節して食物を煮る。また魚や餅,だんごなどを焼く網も設置している。イロリでは飯などは炊かず,別に竈(かまど)を用いている点は注目すべきで,鹿児島県大隅半島や岐阜県の山村などには,イロリと竈とが連続した形式のものが見いだされる。乾燥機能としては,多くはイロリの上に竹などを組んだ棚を作り,その上に衣類とか食料などを置いて乾燥させる。照明機能としては,竪穴住居時代には,獣などの来襲を防ぐ役割を果たしていたと考えられるが,夜なべ仕事としてのわら細工の一部はイロリの明りでもおこなえた。家族の成員の位置づけとして,イロリには座の呼称があり,土間から見て奥の部分が横座で,家の主人が座った。横座に向かって右が嬶座(かかざ)で主婦が座り,嬶座の向いが客座であった。そして土間に近い部分が木尻とか下座(げざ)と呼ばれた。嬶座と客座は左右いれかわることもあるが,座の呼称は全国的に統一されているとみてよい。イロリには〈火の神〉が宿っているという信仰も一般的で,荒神(こうじん),土公神(どこうじん),普賢(ふげん)様などと呼んでいる。毎朝お茶や線香をあげるとか,不浄のあったときに塩で清めることもある。とくに大晦日の夜は大きな木を1本入れて,一晩中もやし続ける所が多く,これを世継榾(よつぎほだ)と呼んで家の永続と繁栄の象徴としている。また,婦人の出産にあたって体をあぶる習俗が沖縄県の各島に見られる。沖縄ではイロリのことをジル(地炉)と呼ぶが,これもイロリと同系の語である。本州でも産婦がイロリを別にしたり,産室で火をたく所は各地にあり,火と出産とが強く結びついていた。イロリの置かれる空間は,東北地方ではジョイ(常居)といい,関東地方から西ではオマエ,オエ,ゴゼン,ダイドコロ(台所),九州ではナイショと呼ぶ所がある。客などを接待したり,神棚や仏壇の置かれている座敷が住宅の間取りや意識の上で公的な表側にあるのに対して,イロリはたいてい寝室と並んで裏側に設けられている。したがってイロリは,家族生活の私的活動の空間部分であり,一家だんらんによる情緒を通わせ安定させる空間であった。そして,情報交換の場であるとともに,昔話が老人の口から語られたりする教育の場の役割を果たしていた。天井のない時代には,イロリは家屋建築材そのものを保全し補強する中心となっていた。
執筆者:坪井 洋文
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…一つの部屋に同席したときに上位の者がすわるべき場所。どこをその部屋の上座と考えるかは室の配置や構成によって異なるが,一般的にはもっとも奥まった所である。座席の配置が明確に決まっていて,一目で同席者の序列を判断できることは,人間関係を円滑にしてきたといえるが,それがもっともはっきりと示されたのはケの空間ではイロリの座であり,ハレの空間では座敷の席である。イロリでは,土間から見て正面の席を上座とする。この座を横座と呼び,家の主人のみがすわる所とするのが全国的である。…
… 農家では千年屋と称される兵庫県の箱木家住宅が,室町時代に建てられたものとみなされる。茅葺入母屋造の屋根で内部は半分ぐらいが土間になり,床の間は表側の細長い室と裏側の〈いろり〉のある居間,およびその奥の納戸からなる。表側には縁がつき,建具は縁と居室の間にあって,袖壁の中へ板戸と障子を引き込む形式である。…
※「囲炉裏」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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