自己炎症性症候群

内科学 第10版 「自己炎症性症候群」の解説

自己炎症性症候群(リウマチ性疾患)

概念・定義
 誘因が不明の炎症反復あるいは持続する多種多様な疾患群で,多くが炎症の経路にかかわる分子群の異常による遺伝性疾患である.自己抗体や自己反応性T細胞を認めず,炎症検査所見が高値を呈することが多い.炎症を惹起する疾患群との鑑別が大切で,感染症,悪性腫瘍,自己免疫疾患などを除外する.
病態生理
 免疫系は大きく獲得免疫と自然免疫に分かれるが,自然免疫の主役は,貪食機能を有する好中球と単球である.病原微生物を構成する膜成分蛋白,糖脂質,DNA,RNAあるいは鞭毛などは,細胞表面におもに存在するToll様受容体や細胞内の受容体を刺激する.病原微生物の侵入は,こうした受容体を刺激し炎症を惹起する.炎症のカスケードは,細胞増殖,分化,細胞死にかかわるNF-κBカスケードと,インフラマソームとよばれるIL-1β/IL-18の加工にかかわるシグナル伝達複合体が重要である(Inoharaら,2003).この経路にかかわる分子群などの遺伝子異常によって炎症が制御できなくなり,炎症が持続あるいは反復する.
鑑別診断
 感染症,悪性腫瘍,自己免疫疾患については臨床経過によって鑑別できることが多い.その他,血球貪食症候群,Castleman病,Weber-Christian病,壊死性リンパ節炎などのまれな炎症性疾患などを鑑別する.
分類
 多種多様な疾患が含まれるが,明確に自己炎症性症候群と考えられる疾患群とその類縁疾患を表10-21-1に示す.さらに,家族性地中海熱は,臨床症状の差異からさらに典型例と非典型例に分かれる.クライオパイリン関連周期性症候群は,臨床症状からさらに3疾患に分類される.
発症頻度
 家族性地中海熱は厚生労働省調査研究班(右田班)の調査では,全国で300人と推定している.周期性発熱・アフタ性口内炎・咽頭炎・リンパ節炎症候群は,10万人あたり2〜5人ほど存在すると推定される.クライオパイリン関連周期性症候群は50人程度,中條-西村症候群は20人程度であり,化膿性無菌性関節炎・壊疽性膿皮症・アクネ症候群,慢性再発性多発性骨髄炎はきわめてまれで,IL-1受容体アンタゴニスト欠損症はわが国では見いだされていない.
検査成績
 白血球は増加するが細菌感染症と異なり,核左方移動はなく,プロカルシトニンも上昇しない.CRP,血清アミロイドAの上昇を伴うことが多く,発熱発作が繰り返される場合は,間欠期にこれらは陰性化する.
各論
1)家族性地中海熱(familiar Mediterranean fever:FMF)(右田ら,2011)(表10-21-2):
インフラマソームの働きを抑えるパイリンの異常で発症する.典型例では突然高熱を認め,半日から3日間持続する.発熱間隔は,4週間ごとが多い.随伴症状として漿膜炎による激しい腹痛や胸背部痛を訴える.胸痛によって呼吸が浅くなる.また,関節炎や丹毒様皮疹を伴うことがある.非典型例は,発熱期間が1〜2週間であることが多く,上肢の関節症状などを伴いやすい.検査所見は,発作時にCRP,血清アミロイドAの著明高値を認め,間欠期にこれらは劇的に陰性化する.副腎皮質ステロイド薬は無効であるが,コルヒチンが約90%以上の症例で著効する.無治療で炎症が反復するとアミロイドーシスを合併することがある.
2)クライオパイリン関連周期性症候群(cryo­pyrin-associated periodic syndrome:CAPS):
インフラソーム構成の中心をなすクライオパイリンなどの異常によって発症し,家族性寒冷じんま疹,Muckle-Wells症候群および慢性乳児期発症・神経・皮膚・関節症候群(CINCA,別名NOMID)の3疾患に臨床像から分類され,この順に症状は重くなる.かゆみが軽度の慢性じんま疹,鞍鼻結膜炎を共通して認める.Muckle-Wells症候群では,反復する発熱,難聴,関節症状,成長障害が加わる.慢性乳児期発症・神経・皮膚・関節症候群では,さらに,生後早期から発熱,無菌性髄膜炎,神経症状を認める.CRP値や血清アミロイドAが持続的に高値で診断の手がかりになる.治療は,IL-1阻害薬が著効する.
3)化膿性無菌性関節炎・壊疽性膿皮症・アクネ症候群(pyogenic sterile arthritis,pyoderma gangrenosum,acne:PAPA)
壊疽性膿皮症,化膿性無菌性関節炎,囊胞性アクネを呈する.化膿性無菌性関節炎は幼児期からみられ,その後,囊胞性アクネや壊疽性膿皮症が発症する.血液検査では炎症所見を認めないことが多い.インフラマソームにかかわるCD2 binding protein 1(CD2BP1)がその責任遺伝子として報告されている.副腎皮質ステロイド薬に対して反応は良好である.
4)IL-1受容体アンタゴニスト欠損症(deficiency of the interleukin-1-receptor antagonist:DIRA):
生体内に存在するIL-1受容体アンタゴニストに遺伝子異常があると,生下時から重度の骨膜炎・骨髄炎と皮膚の膿庖症を発症する.IL-1受容体アンタゴニストの投与が奏効する.
5)慢性再発性多発性骨髄炎(chronic recurrent mul­tiple osteomyelitis:CRMO):
10歳くらいの女児に好発する.長管骨骨幹端,脊椎,骨盤,上肢帯などに多発性に骨髄炎が生じ反復する.MRIが診断に有用である.軽症例にはNSAIDsを用いるが,自然消退することも多い.
6)TNF受容体関連周期性症候群(TNF-receptor-associated periodic syndrome:TRAPS)
数週間持続する発熱がみられ反復する.随伴症状として,結膜炎,関節炎,筋膜炎,皮疹および特徴的な消化器症状を認める.関節炎は発赤,腫脹,疼痛を伴う.検査所見は,発熱時に血清CRP,血清アミロイドA,炎症性サイトカイン値が著明高値になる.責任遺伝子であるTNF受容体タイプ1の遺伝子変異が検出されることは少ない.病変部の皮膚生検では,単球中心の細胞浸潤がみられる.発熱時には副腎皮質ステロイド薬によって炎症を制御できるが,重症例にはTNF阻害薬を用いる.
7)Blau症候群/若年性サルコイドーシス(Blau syn­drome/early-onset sarcoidosis:EOS):
Nod2遺伝子異常によって生じる同一の疾患である.若年性サルコイドーシスは散発例であるが,Blau症候群では家族内発生を認める.ブドウ膜炎,関節炎,結節性の皮疹を伴う.皮疹の生検では,非乾酪性肉芽腫を認める.関節炎は発赤,疼痛はなく,関節変形は起きにくい.脈絡膜,毛様体,虹彩などのブドウ膜に強い炎症が生じ,特に虹彩炎を伴いやすい.虹彩が癒着し前房水の流れが阻害されると,眼圧が上昇し緑内障となり,放置すると視神経が障害され失明する.中等度の発熱を認めることがある.副腎皮質ステロイド薬がブドウ膜炎などに有効である.
8)周期性発熱・アフタ性口内炎・咽頭炎・リンパ節炎症候群(periodic fever,aphthous stomatitis,phary­ngitis, cervical adenitis:PFAPA):
口内炎,リンパ節炎,扁桃炎・咽頭炎を伴う発熱発作を反復する原因不明の自己炎症性症候群である.頭痛,咽頭痛,嘔吐を認めることもある.発熱期間は数日から1週間で発熱間隔は月に1回が多い.約40%に家族内発症を認める.発症年齢は3〜4歳に多いが成人発症もみられる.発熱時にCRPがきわめて高値になり,好中球が活性化する.治療は,シメチジンの予防内服,発作時の副腎皮質ステロイド薬投与,扁桃摘出が有効である.
9)高IgD症候群(hyper-IgD and periodic fever synd­rome:HIDS):
乳児期早期から周期性発熱を認め,随伴症状として,頸部リンパ節腫脹,関節炎,頭痛,皮疹,消化器症状がみられる.好中球優位の白血球増加,CRP高値,赤沈亢進を認め,約80%で血清IgDが高値になる.メバロン酸キナーゼ遺伝子の変異を認め,尿中のメバロン酸が増加する.スタチンの有効性が報告されている.
10)中條-西村症候群(Nakajo-Nishimura synd­rome:NNS):
凍瘡様皮疹で発症し,その発熱や結節性紅斑様皮疹が反復する.長く節くれ立った指が認められるようになり,部分的脂肪筋肉萎縮が進行し次第にやせてくる.CRP,血清アミロイドA上昇.常染色体劣性遺伝で,責任遺伝子として蛋白質の分解を行うプロテアソーム複合体の構成因子が同定された.副腎皮質ステロイド薬の内服が行われている.
11)類縁疾患(Kantnerら,2010):
血清IL-18が高値を呈する全身型若年性特発性関節炎/成人Still病,肉芽腫病変を形成するCrohn病ならびにブドウ膜炎や結節性紅斑を認めるBehçet病は,原因は不明だが自己炎症性症候群の範疇に入ると考えられる. 自己炎症疾患は特徴的な臨床像を呈するため,臨床症状から疾患を絞り込むことができる.責任遺伝子解析は確定診断に有用である.本症はおのおのの自己炎症性症候群において,有効な治療法が確立しているため,早期に診断し,その疾患に合った治療をすることが肝要である.[上松一永]
■文献
Inohara N, Nuñez G: NODs: intracellular proteins involved in inflammation and apoptosis. Nat Rev Immunol, 3: 371-382, 2003.
右田清志,上松一永:家族性地中海熱の臨床.日本臨床免疫学会会誌,34: 355-360, 2011.
Kastner DL, Aksentijevich I, et al: Autoinflammatory disease reloaded: a clinical perspective. Cell, 140: 784-790, 2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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