改訂新版 世界大百科事典 「船舶無線通信」の意味・わかりやすい解説
船舶無線通信 (せんぱくむせんつうしん)
船舶における無線通信は,航行中の船舶が火災,沈没等重大かつ急迫の危険に陥ったときに救助を求める遭難通信等人命財貨の保全のための通信をはじめ,船舶の旅客,乗組員とその家族との間の公衆通信や,船舶の効率的な運航を図るために海運事業者等との間に情報を提供しまたは指示を求める運航管理通信など,陸上と船舶または船舶相互間を結ぶ唯一の連絡手段として活用されている。このように船舶の無線通信は,船舶の安全運航等に必要不可欠のものとして重要な役割を果たしているが,外国の海岸局(船舶の無線通信の相手方となる陸上の無線局)や外国の船舶局(船舶の無線局)とも通信を行うため,国際条約等によって厳しい要件が課せられ,統一が図られている。日本では,船舶安全法によって総トン数300トン以上の船舶(漁船は100トン以上)に無線設備(電信または電話)の設置が義務づけられているとともに,電波法によって無線設備の技術基準,国際遭難周波数(電信500kHz,電話2182kHz,156.8MHz)の聴守義務,通信方法,無線設備を操作する者(無線従事者)の資格要件等が定められ,船舶の無線通信の技術水準と通信の秩序の維持が図られている。通信方法は,遭難通信等はすべての船舶局や海岸局に対して行われるが,公衆通信等は船舶局↔海岸局↔陸上の公衆通信網経由発・着信人の順で伝送される。公衆通信を取り扱う海岸局は世界各地に点在しており,日本のおもなものに銚子,長崎海岸局(電信),東京海岸局(電話)がある。漁船の無線通信は,漁獲高の報告,漁具の手配または指導監督のため漁業協同組合等の海岸局や国,県の指導船とも通信を行うことが多い。船舶の無線通信は従来の電信や電話等に加えて,最近は人工衛星を利用した通信など,無線技術の進歩発達をとり入れた近代化が図られている。
執筆者:馬場 博康
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報