菌食論(読み)きんしょくろん(その他表記)mycophagism

日本大百科全書(ニッポニカ) 「菌食論」の意味・わかりやすい解説

菌食論
きんしょくろん
mycophagism

菌食とは、キノコのような菌類そのものはもちろん、ぬかみそ漬け、納豆、みそ、ヨーグルトのように菌類の発酵作用を利用した加工食品などをさす新しいことばである。菌食論とは、菜食主義、肉食主義のような偏った食生活ではなく、植物、動物、菌類質の食べ物を組み合わせるのが、自然の法則にかなった健全な食生活であるという新しい栄養論である。この栄養論は、生態系自然観に基づいて、癌(がん)という病気と日本人の健康について考えた結論として菌学者の今関六也(いまぜきろくや)が唱えた栄養論である(1968)。

 これまでの栄養学は、炭水化物、脂肪、タンパク質を栄養の3要素とし、これにビタミン、ミネラルを加え、栄養の化学的バランスを強調するものであった。この意味では、第二次世界大戦前の食生活には炭水化物偏重の欠陥があった。これが戦後は大いに改善され、脂肪、タンパク質が増えたためか、青少年体格は著しく向上した。しかし、病気では結核は激減したが、反面、癌が増え、心筋梗塞(こうそく)、糖尿病といった欧米型の病気が増加し、しかも若年層からの発病など、日本人の体質は明らかに変化し、悪化の傾向をさえ示している。

 このような体質の変化をもたらした最大の原因として、食生活の変化、とくにみそ汁、ぬかみそ漬けなどの菌類質食品の摂食量が減ったことがあげられる。菌疎外の食生活は、農作物有機質肥料から化学肥料に変わったことで倍加した。そもそも原始生物から人類が進化するまでには35億年の長い生命の歴史が必要であった。その歴史を築いてきたのが植物、動物、菌類という三つの基礎生物群の共同生活であり、この共同生活によって支えられた栄養生活である。すなわち、われわれの食物もただ栄養の化学的バランスを整えるだけでなく、栄養の3要素を三つの生物群を通してとるという生物学的バランスを兼ね備えることをもって、自然の理にかなった食生活というのが菌食論の趣旨である。近年、各種のキノコ、カビ細菌から制癌性物質が発見され、また、みそ汁の制癌性が医学界で唱えられることなどは、菌食論の妥当性を裏づけるものといえよう。

[今関六也]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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