デジタル大辞泉
「菜食主義」の意味・読み・例文・類語
さいしょく‐しゅぎ【菜食主義】
野菜類を主とした食事をとる考え方。菜食をよしとする主義。「菜食主義者」
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さいしょく‐しゅぎ【菜食主義】
- 〘 名詞 〙 野菜類を主とした食事をとる考え方。菜食がよいとする主義。
- [初出の実例]「瑞典式体操、菜食主義、複方ヂアスタアゼ等を軽んずるのは」(出典:侏儒の言葉(1923‐27)〈芥川龍之介〉作家)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
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菜食主義
さいしょくしゅぎ
vegetarianism
もっぱら野菜,果物,穀物,豆類,ナッツを食べて生活するという考え方,またはその実践。ベジタリアニズムともいい,実践者をベジタリアン,菜食主義者と呼称する。多くの場合,倫理的,禁欲主義的な理由,あるいは環境保護や栄養にかかわる理由が背景にある。食肉はいかなる種類であれ,すべての食事から除外されるが,乳や乳製品,蜂蜜を摂取するベジタリアンは多い。欧米のベジタリアンはたいてい卵を食べるが,インドのベジタリアンは,古典期の地中海地域の人々と同じく,卵を断つ人が大多数である。皮革,絹,羊毛といった動物由来の製品の使用も完全に断つベジタリアンはビーガン(→ビーガニズム)と呼ばれ,乳製品を食するベジタリアンをラクト・ベジタリアンlacto-vegetarian,加えて卵も食するベジタリアンをラクト・オボ・ベジタリアンlacto-ovo vegetarianと呼ぶ。また,陸生動物の肉を断つ点でベジタリアンと同じだが,魚や貝を食べる人はペスカタリアン(→ペスカタリアニズム)と呼ばれる。かつては特権階級を除けば肉食がまれであったことから,一部の農耕民族の間で肉を食べない人々に対してベジタリアンと呼ぶなど,ややまぎらわしい使い方がなされていたこともある。
肉食の意図的な回避はおそらく当初は,一時的に身を清める,祭司の務めを果たすなどの宗教儀式と関連して散発的に行なわれていたとみられる。肉を含まない食事を常食とすることは,前一千年紀半ば頃に当時の哲学的覚醒の一環として,インドや地中海地域で提唱され始めた。地中海地域で肉食の回避が初めて記録されたのは,サモス島の哲学者ピタゴラスの教えとしてであった。ピタゴラスはすべての動物は親族関係にあり,そのことが他の生物に対する人間の慈悲心の土台であると主張した。プラトン以降,エピクロスやプルタルコスといった汎神論的な哲学者たち,特に新プラトン主義の哲学者は肉を含まない食事を推奨した。こうした考え方は,礼拝で流血のいけにえを捧げることへの批判を含み,霊魂再来の信仰,広く言えば,生きるうえで指針となる宇宙調和の原理の探求につながった。インドでは,仏教徒とジャイナ教徒が倫理的,禁欲主義的な理由から食用のために動物を殺すことを拒んだ。人間は,知覚を有するいかなる生き物に対して危害を加えてはならないと考えたからである。この原理はバラモン教に,のちにヒンドゥー教にも取り入れられ,とりわけウシに対して適用された。こうした思想は,地中海地域の人々の考え方と同じく、流血の供儀への批判を含んでおり,宇宙調和の原理につながることが多かった。
その後数世紀にわたり,インドでは仏教は徐々に衰退したものの,不殺生・不傷害というアヒンサーの理想とその帰結である肉をとらない食事は,紀元一千年紀の間に徐々に広がり,やがて上位カーストの多くに,さらに下位カーストの一部にも取り入れられた。菜食主義は仏教とともにインドを越えて北へ東へと広がり,遠く中国や日本に伝わった。一部の国では肉を含まない食事に魚が加えられるようになった。
17~18世紀には人道主義や道徳心向上への関心が高まり,人々は動物の苦しみを感じとるようになった。プロテスタントの一部の宗派は,罪なき生き方を目指して肉を含まない食事を取り入れた。哲学者のボルテールは菜食主義を称賛し,19世紀の詩人パーシー・ビッシュ・シェリーやヘンリー・デービッド・ソローはベジタリアン食を実践した。功利主義哲学者ジェレミー・ベンサムは,動物の苦しみは人間の苦しみと同じく倫理的考察に値すると主張し,動物に対する残虐行為は人種差別に類似すると考えた。
19世紀初頭のベジタリアンたちはしばしばアルコールの摂取も非難し,倫理的感覚に訴えるだけでなく,栄養面の利点も広く伝えた。菜食主義の運動はそれまで常に倫理的傾向の強い個人によって進められていたが,いくつかの組織がこの時代に育っていった。1847年,最初のベジタリアン協会がイギリスで聖書キリスト教会の一派によって設立された。1889年には国際ベジタリアン連合 International Vegetarian Unionが暫定的に,1908年には永続的な組織として発足した。
20世紀初めまで欧米における菜食主義は,とりわけドイツでシンプルかつ健康的な生活習慣への変革を目指す大きな運動の一環としてとらえられ,特定の疾患を治療するための食餌療法の一つとみなされた。20世紀後半になると,オーストラリアの倫理哲学者ピーター・シンガーの研究に触発され,より広いテーマである動物の権利擁護に対する哲学的関心が再び高まった。シンガーは,食肉用に動物を飼育・と畜する現代の方法(集約畜産あるいは工場式畜産)は,倫理的に正当化されるものではないと主張した。
21世紀初めまでにベジタリアン・レストランは欧米の多くの国で一般的なものになったほか,風味や形を肉製品や乳製品に似せたものも含めベジタリアンやビーガン用の食品の生産を専業とする企業も増えた。パラミツ(ジャックフルーツ),ポートベロマッシュルーム,発酵大豆でつくられたテンペおよび豆腐などからは,いわゆる「代替肉」がつくられている。また,穀物や豆,他の植物由来の原料からつくられた特殊加工食品となると無数にある。今日,肉を含まない食事に関しては,調理法のほかに,健康や地球環境,道徳面からのさまざまな考え方について,多くのベジタリアン団体や動物の権利擁護団体が情報を発信している。畜産業は温室効果ガスであるメタンの排出の主要因であり,食肉生産は同量の農産物を生産する場合と比べてかなり多くの土地や水資源を必要とすることから,菜食主義の実践は人間活動がもたらした気候変動に対処し,より持続可能な土地利用を進めるための一手段として推奨されている。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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菜食主義 (さいしょくしゅぎ)
vegetarianism
肉食を避け,植物性食品のみを摂取して生きようとする考え方。宗教,思想上の信条に基づいて信奉されることが多く,現にインドでは多くのヒンドゥー教徒がこれを順守している。西洋では古代ギリシアで発祥し,前6世紀にピタゴラスがまずこれを唱えた。それは神祭における動物の供犠に対する倫理的批判に発したもので,この思想はソクラテスにひきつがれ,プラトンにいたって倫理的な理由とともに健康長寿の法としての菜食主義が説かれるようになった。キリスト教成立後は肉食の是非をめぐってしばしば教義上の論争がくり返され,初期には肉食忌避の傾向が強かった。中世の異端カタリ派は現世を悪と見,その象徴である肉を食べることを拒んだ。しかし,現在では肉食を容認することが多くなっている。18世紀以降ルソーやトルストイのような著名な菜食主義者がおり,19世紀の中ごろから欧米で近代菜食主義運動が展開された。1842年イギリスでベジタリアンvegetarianの語が生まれ,47年マンチェスターに菜食協会が結成され,50年にはニューヨークでも菜食主義者の団体が設立された。フランスでは近代菜食主義の祖と呼ばれるグレッツェJ.A.Gleïzès(1773-1843)の後継者が,78年にはパリで菜食主義博覧会を開き,86年には菜食協会を発足させて,肉食の弊害と菜食の必要性を説いた。そして,1908年パリで最初の世界菜食主義者大会が開かれ,国際運動を展開した。現代では宗教的理由だけでなく,食肉生産の高コスト性や肥満防止からも菜食が支持されている。いっさいの動物性食品を拒否するベガン協会Vegan Society(設立1944)のような超純粋派,魚は食べるというフィッシュ・ベジタリアン,さらに魚も忌避するが卵は食べるというエッグ・ベジタリアンがあり,最後のグループが大勢を占めているようである。
→肉食
執筆者:堀 健三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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菜食主義【さいしょくしゅぎ】
主として植物性の食品を摂取し,肉食をせずに生きてゆこうとする考え方。宗教的,思想的な信条によることが多いが,そうでない場合もある。仏教やヒンドゥー教では肉食を禁じているし,キリスト教でも肉食の是非がしばしば論議され,現在でも一部の宗派では肉食をしない。また古代ギリシアでは,前6世紀の哲学者ピタゴラスが,自ら設立した〈ピタゴラス教団〉で肉食を断つように説いた。プラトンもまた,理想とする国家における食べ物として植物性のものを挙げ,動物の肉を入れていない。レオナルド・ダ・ビンチ,B.フランクリン,J.ルソー,L.トルストイ,G.バーナード・ショー,M.ガンディーといった著名な人々も菜食主義者であった。 19世紀半ばには欧米で近代菜食主義運動が起こり,1842年イギリスでベジタリアンvegetarianという言葉が生まれ,1847年マンチェスターで〈ベジタリアン協会〉が設立された。その後アメリカやフランスにも広がり,1908年にはパリで世界菜食主義者大会が開かれた。現代でも種々の観点から菜食は支持されているが,すべての動物性食品をとらない立場から,魚や卵,乳製品などは許容する立場までいろいろある。
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
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菜食主義
菜食を自らの主張とすること.卵,乳は摂取するvegetarismと,それも拒否する完全菜食主義のveganismがある.
出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報
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世界大百科事典(旧版)内の菜食主義の言及
【食事】より
…中国は仏教と道教が伝統的宗教であったが,食物に対する宗教的規制はゆるやかで,一般の民衆は特定の日に生ぐさ物を食べずに,素菜(そさい)といわれる精進料理ですごす程度で,日常の食生活にはほとんどの食品を食べることが許されていた。インドのヒンドゥー教徒は聖獣であるウシを食用としないことが知られているが,輪廻転生の観念にもとづく殺生戒を守り,肉食をいっさいおこなわない菜食主義者が人口の多数を占めている。イスラム教徒はコーランによって禁じられた豚肉,動物の血液などがタブーであり,飲酒も好ましからぬこととされ,イスラム教徒が祈りを唱えながら,のど首をかき切って屠殺(とさつ)した動物の肉だけが食用として許されている。…
※「菜食主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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