肉食を避け,植物性食品のみを摂取して生きようとする考え方。宗教,思想上の信条に基づいて信奉されることが多く,現にインドでは多くのヒンドゥー教徒がこれを順守している。西洋では古代ギリシアで発祥し,前6世紀にピタゴラスがまずこれを唱えた。それは神祭における動物の供犠に対する倫理的批判に発したもので,この思想はソクラテスにひきつがれ,プラトンにいたって倫理的な理由とともに健康長寿の法としての菜食主義が説かれるようになった。キリスト教成立後は肉食の是非をめぐってしばしば教義上の論争がくり返され,初期には肉食忌避の傾向が強かった。中世の異端カタリ派は現世を悪と見,その象徴である肉を食べることを拒んだ。しかし,現在では肉食を容認することが多くなっている。18世紀以降ルソーやトルストイのような著名な菜食主義者がおり,19世紀の中ごろから欧米で近代菜食主義運動が展開された。1842年イギリスでベジタリアンvegetarianの語が生まれ,47年マンチェスターに菜食協会が結成され,50年にはニューヨークでも菜食主義者の団体が設立された。フランスでは近代菜食主義の祖と呼ばれるグレッツェJ.A.Gleïzès(1773-1843)の後継者が,78年にはパリで菜食主義博覧会を開き,86年には菜食協会を発足させて,肉食の弊害と菜食の必要性を説いた。そして,1908年パリで最初の世界菜食主義者大会が開かれ,国際運動を展開した。現代では宗教的理由だけでなく,食肉生産の高コスト性や肥満防止からも菜食が支持されている。いっさいの動物性食品を拒否するベガン協会Vegan Society(設立1944)のような超純粋派,魚は食べるというフィッシュ・ベジタリアン,さらに魚も忌避するが卵は食べるというエッグ・ベジタリアンがあり,最後のグループが大勢を占めているようである。
→肉食
執筆者:堀 健三
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…中国は仏教と道教が伝統的宗教であったが,食物に対する宗教的規制はゆるやかで,一般の民衆は特定の日に生ぐさ物を食べずに,素菜(そさい)といわれる精進料理ですごす程度で,日常の食生活にはほとんどの食品を食べることが許されていた。インドのヒンドゥー教徒は聖獣であるウシを食用としないことが知られているが,輪廻転生の観念にもとづく殺生戒を守り,肉食をいっさいおこなわない菜食主義者が人口の多数を占めている。イスラム教徒はコーランによって禁じられた豚肉,動物の血液などがタブーであり,飲酒も好ましからぬこととされ,イスラム教徒が祈りを唱えながら,のど首をかき切って屠殺(とさつ)した動物の肉だけが食用として許されている。…
※「菜食主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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