肥料として農地に施与される動・植物質由来の有機物資材をいう。魚粉,骨粉,植物性油かす(ダイズ油かす,ナタネ油かすなど)とそれらの加工品などがある。昔は生わらや堆肥,厩肥(きゆうひ)のような土壌改良を目的とした粗大有機物資材や人糞尿(じんぷんによう),家畜・家禽(かきん)糞などは自給肥料として通常の販売有機質肥料と区別されていたが,現在ではこれらのものでも多少加工されただけで販売されるようになり,有機質肥料とみなされている。さらに最近は下水汚泥や食品産業などの有機性廃棄物や木材質廃棄物も加工されて農地に施与されるようになり,有機質肥料の種類も多くなった。ただし,尿素やその誘導体あるいはシアナミド誘導体のように化学的に合成される有機化合物を原料とした緩効性窒素肥料は通常の有機質肥料とは区別される。肥料取締法では,有機質肥料は特殊肥料と普通肥料とに区別される。特殊肥料は米ぬか,堆肥,人糞尿,魚肥,家畜・家禽糞,汚泥堆肥など外観的にその内容が識別されるものである。普通肥料に分類される有機質肥料は約40種あり,含有すべき主成分の含有量に一定の基準を設けている。特殊肥料ではそのような基準はない。
人や動物の排出物あるいは刈草や,落葉,底泥などを農地に施与すれば,作物の生育に有効であることは経験的に古くから知られており,日本でも10世紀にすでに馬糞が用いられたという記録がある。しかし,商品として肥料が販売され始めたのは江戸時代中期からと考えられており,当時は油かすや干魚が,ワタ,アイ,タバコのような換金性の高い作物に利用された。以後,しだいに多く流通するようになり,明治時代から昭和の初めにかけ消費量は増加しつづけたが,1935年をピークとして,やがて,化学肥料の普及に伴い消費は急減した。最近は70年当時より,倍近い生産量があるが,これは主として汚泥や家禽糞(鶏糞)由来の肥料の伸びによる。魚かすや植物性油かすは肥料としての消費と飼料としての消費があり,飼料事情に応じて肥料消費は変動する。昭和の初期と比較して消費量は激減したとはいえ,タバコなど特定の作物については昔からよく利用されており,最近は地力維持や良質農産物の生産に有効であるという考えが浸透しつつあることと,有機性の廃棄物を資源の有効利用,物質循環という観点から肥料化する傾向があるために,その利用は微増しつつある。
有機質肥料が化学肥料よりすぐれていると期待される効果には次のようなものがある。(1)有機質肥料は一般に肥効成分として窒素とリンを含み,これらは有機物の分解に伴い溶出し有効化するので,肥効が緩効的かつ持続的で,作物の生育に適する場合が多い。(2)有機物が土壌の団粒形成や膨軟化に役立ち,また土壌に化学的緩衝能を与えるなど,土壌の化学的,物理的性質を改善する場合がある。(3)作物の生育に必要な微量要素の供給源となる。(4)有機物の分解に伴い作物の生育を促進する物質が生成される。(5)土壌微生物の働きを活発にし数も増加させ,作物根の生育環境を改良する。
一方,有機質肥料の欠点としては次のようなものがある。(1)有機物自体あるいはその分解生成物が作物に有害なことがある。(2)化学肥料と比較して,有効成分の含量が低く,またその利用率も概して低い。(3)品質が不均一で供給がやや不安定で,かつ成分当りの単価が高い。
なお,上記のような効果は有機質肥料を10a当り100kg以上も施用した場合に期待されるもので,少量を施与した場合には効果は期待できない。
執筆者:茅野 充男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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