落込(読み)おちこむ

精選版 日本国語大辞典 「落込」の意味・読み・例文・類語

おち‐こ・む【落込】

〘自マ五(四)〙
① 落ちて低い所や物の中にはいる。はまる。
西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉三「敷蒲団の数多く且柔らかにして人の体(たい)は其中に落込む程のことなれば」
② 深くくぼむ。一段と低くなる。
※忘れえぬ人々(1898)〈国木田独歩〉「九重嶺の高原が急に頽(オチ)こんで居て」
③ よくない状態になる。
(イ) ある程度より低い状態になる。
※ものの見方について(1950)〈笠信太郎イギリス「いま低く落ち込んでいるイギリス経済の床を」
(ロ) 心を奪われて動きのとれない状態になる。おちいる。「危険におちこむ」
※にごりえ(1895)〈樋口一葉〉四「二葉やのお角に心から落込んで、かけ先を残らず使ひ込み」
④ 自然に手にはいる。
※金(1926)〈宮嶋資夫〉一「欧羅巴の民間に落た巨額の金、それはやがて我等の国に落ち込んで来るものだ」
⑤ 納得する。わかる。
八十八夜(1939)〈太宰治〉「あっ、さうか、あれか、と腹に落ち込ませたく」
気持が暗くなる。気分の沈んだ状態になる。
※普通の生活(1984)〈景山民夫〉マニラ・イン・ザ・レイン「ホテルに戻った時、僕はすっかり落ちこんでしまっていた」
⑦ 取引相場で、基準値段や円台より下がる。台を割る。相場が予想以上の水準に下落する。

おとし‐こ・む【落込】

〘他マ五(四)〙
① 落下させて、ある物の内に入れる。
米欧回覧実記(1877)〈久米邦武〉三「一人は『ガラス』の溶料を分量して、型に落しこめば」
② めりこむようにする。
蟹工船(1929)〈小林多喜二〉五「首をひねられた鶏のやうに、首をガクリ胸に落し込んで」
③ はかりごとや罪におとしいれる。他人をあざむいておとしいれる。はかる。〔詞葉新雅(1792)〕
※それから(1909)〈夏目漱石〉一三「自分の望む所へ落し込まうと」
④ ある好ましくない状態に引き入れる。おとしいれる。
蓼喰ふ虫(1928‐29)〈谷崎潤一郎〉八「一途に愛慾の世界へ身をおとし込む勇気もなくて」

おち‐こみ【落込】

〘名〙
① 落ちて他のものの中に入ること。
② 一定の水準より程度が低いこと。落ちくぼんでいること。「景気の落ち込み」
③ 気持が沈むこと。
④ 夏季、浅いところにいた魚が、秋の末ごろから川の淵、または海の深いところへ移動して行くこと。また、その魚。
⑤ 和船の舵の身木(みき)の部分名称。床船梁の鷲口(わしぐち)にはめ込む所をいい、舵を左右にまわすときの支点となる箇所。おちつまり。〔和漢船用集(1766)〕
⑥ (「おち」は最後の意) 芸人が寄席(よせ)などに掛け持ちで出ているとき、その日の最終の席をいう。

おとし‐こみ【落込】

〘名〙 日本画の彩色法の一種。輪郭の線を描かないで花鳥画を描き、それがまだ完全に乾かないうちに、金銀泥、緑青などを加える方法。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

今日のキーワード

靡き

1 なびくこと。なびくぐあい。2 指物さしものの一。さおの先端を細く作って風にしなうようにしたもの。...

靡きの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android