改訂新版 世界大百科事典 「蠟箋」の意味・わかりやすい解説
蠟箋 (ろうせん)
料紙の装飾の一種の蠟を塗ったような光沢のある線で文様が表現された紙。通説では蠟をこすりつけたものとされるが,それでは文様の線の上に墨がのらないはずである。古い蠟箋はいずれも墨付きが良好である点からみて,文様を彫った版木の上に紙をのせ,上から玉や牙のようなもので紙面を摩擦して,文様をこすり出したものと考えられる。この技法は,胡粉を塗った(具引き)紙に,版木で雲母を刷り込んだ〈からかみ(唐紙)〉の手法とよく似ており,同一の版木を使って〈からかみ〉と蠟箋を作ったものもある(その場合,文様の左右は逆になる)。蠟箋は〈からかみ〉とともに中国から10世紀末ころから輸入されたとみられる。中国では唐時代には版画が行われているので,蠟箋もそのころに生まれ,〈からかみ〉よりも先に始められたとも想像される。〈からかみ〉は日本でも模倣して作られるが,蠟箋は行われなかった。蠟箋が盛んに用いられた11世紀から12世紀初めにかけてのものは,北宋(960-1126)の蠟箋で優美華麗の文様で,藤原時代の仮名書きなどの料紙としては適当であった。しかし南宋(1127-1279)の蠟箋の文様は中国風で仮名には適せず,鎌倉時代以後の僧侶らが愛用した。室町時代には書ばかりでなく,絵を描くにも蠟箋が用いられた。元,明,清と各時代の蠟箋が輸入され,文人らに珍重されてきた。なお,江戸時代ころから蠟箋の意味があいまいになり,蠟地の紙,つまり蠟やパラフィンなどをしみ込ませた紙,あるいは蠟に似た感触をもつ紙も含めるようになり,包紙など書写以外の用途の紙を指す場合も生じた。
執筆者:柳橋 真
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報