広義には,中国から渡来された紙をいう。必ずしも唐時代には限定されず,幅広く使われている。平安時代の文学には,たびたび〈からのかみ〉〈からかみ〉が出てきて,消息(手紙)などに愛用されていたことがわかる。狭義には,中国の華麗な文様で装飾した紙をいう。この手法は,紙の全面に胡粉(ごふん)を塗り(具引き),その上に雲母の粉末を版木で刷ったもので,きらきら光るところから,〈きら〉〈きらきら〉などとも呼ばれた。本来,中国から渡来したものだが,日本で同じ文様を写して版木に彫り,類似の装飾紙を作るようになった。したがって,中国からの輸入が途絶えたあと,日本でこれに似せて作られた〈からかみ〉は和紙に装飾がほどこされている。《西本願寺本三十六人集》などは,和製の〈からかみ〉が使われているという。
この装飾紙を指していう唐紙を,平安時代には書の料紙として使っていたが,中世以後は唐紙障子にはる,いわば現在の襖(ふすま)紙に相当する使い方が主となった。このため,襖のことを〈唐紙(からかみ)〉と呼ぶことがある。
中世には唐紙を〈からかみ〉と呼ぶほかに,〈とうし〉とも呼ぶようになった。この場合は,中国で竹を原料としてすいた画仙紙用の毛辺紙を指すものと思われる。〈とうし〉を日本ですく試みは,江戸時代以後行われてきたがあまり盛んにならなかった。中国流の書道用紙の製紙が盛んになったのは,昭和20年代の後半からで,この場合は主原料が木材パルプ等で,名称も画仙紙と呼ばれている。
執筆者:柳橋 真
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
中国南部で生産される種々の紙の日本での総称。奈良時代までにアサ(麻)またはコウゾ(楮)を原料とした溜(た)め漉(ず)き法による製品が、主として写経用として輸入されていたことは、正倉院の宝物にみられる。平安時代には染め紙が貴族社会でもてはやされたようすも、当時の王朝文学作品などからうかがえる。中世になると、品質や生産量においては和紙が優位をみせるようになるが、それでも唐紙は、その後、原料に竹の繊維を応用する方法が完成するなど、墨書きになお特有の雅趣があったため珍重された。江戸時代にも多く輸入され、上等品は毛辺(もうへん)、下等品は連史(れんし)とよばれた。一方和唐紙とよばれる模造品も、江戸や水戸、薩摩(さつま)(鹿児島県)などでつくられた。
同じ唐紙も「からかみ」と読む場合、後世では襖(ふすま)紙あるいは襖自身のことをさすが、これは、室町時代から板戸にかわって紙の障子が流行し、襖に輸入紙を張ったことからの名残(なごり)である。
[町田誠之]
遣唐使船などによって中国から渡来した紙。平安時代に、模様のある唐紙が衝立(ついたて)や襖(ふすま)障子に張られるようになり、室町時代以後は国産の優れた品も普及したが、江戸時代になると襖専用の紙を「から紙」、中国産の紙を「とう紙」とよんで区別し、襖そのものを「からかみ」とよぶようになった。
木村青竹(せいちく)編『紙譜(しふ)』(1777)に、「縦九寸九分、横一尺六寸、是襖(これふすま)、屏風(びょうぶ)の上張紙にて模様数品、金銀泥まがひ等、おのおの其好に随(したが)ふ」とあり、現在のような襖1枚の大きさではなく、1枚ないし12枚の小形紙の模様を張り継いだ。胡粉(ごふん)、雲母(うんも)、金銀砂子(すなご)、漆などを使って加工した紙は、江戸時代に光悦紋様などとともに流行し、有名社寺、商家、家元・宗家などが専用の版木を彫らせて、唐紙師を繁盛させた。現在は京都でただ1軒だけが伝統の技術を伝承し、茶室や数寄屋造(すきやづくり)の内装用として愛好されている。
[町田誠之]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…《西本願寺本三十六人集》などは,和製の〈からかみ〉が使われているという。 この装飾紙を指していう唐紙を,平安時代には書の料紙として使っていたが,中世以後は唐紙障子にはる,いわば現在の襖(ふすま)紙に相当する使い方が主となった。このため,襖のことを〈唐紙(からかみ)〉とよぶことがある。…
…中国の書道用紙を日本で模倣して,製紙したもの。本来,江戸時代に中国から輸入された紙(唐紙と総称した)の中に,画牋紙(雅仙紙・画箋紙など)の名の紙があった。これは中国の有名な紙で書画に用いる宣紙にちなむ名といわれる。…
※「唐紙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新