唐紙(読み)カラカミ

デジタル大辞泉 「唐紙」の意味・読み・例文・類語

から‐かみ【唐紙】

中国から渡来した紙。また、それに似せて日本で製した紙。華麗な模様のある厚手の紙が、平安時代には衝立ついたて襖障子ふすましょうじ、その他の装飾に用いられた。江戸時代には襖専用の紙を「からかみ」、中国産の紙を「とうし」とよんで区別した。
唐紙障子」の略。
織り色の名。縦糸は白色、横糸は黄色のもの。
かさねの色目の名。表は白色、裏は黄色のもの。
近世、品川の遊里の下級女郎

とう‐し〔タウ‐〕【唐紙】

中国で作り、日本に輸入された紙。質はもろいが、墨の吸収がよいので古来書画用などとして愛用された。19世紀に入って和唐紙とよばれる模造品も作られた。→からかみ(唐紙)

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精選版 日本国語大辞典 「唐紙」の意味・読み・例文・類語

から‐かみ【唐紙】

  1. 〘 名詞 〙 ( 唐風の紙の意 )
  2. 中国渡来の紙に模して作った紙。種々の色模様が摺り出してあり、金・銀泥を塗ったものもある。
    1. [初出の実例]「ろうの天上に三尺のからかみを、かむのおとどの御にも、これにもかけたまへり」(出典:宇津保物語(970‐999頃)楼上上)
    2. 「座鋪の壁、襖、障子などをから紙にてはる事は古よりある事也」(出典:随筆・貞丈雑記(1784頃)一四)
  3. からかみしょうじ(唐紙障子)」の略。
    1. [初出の実例]「今宵さへ事しげしとて逢ふことをちがへやりどのたてるからかみ〈藤原知家〉」(出典:新撰六帖題和歌(1244頃)五)
  4. 織色の名。経(たていと)が白、緯(よこいと)が黄。
  5. (かさね)の色目の名。表が白、裏が黄。
    1. [初出の実例]「からかみ・うすいろ・これらは皆白きすずし裏なり」(出典:満佐須計装束抄(1184)三)
  6. 特に、江戸時代、品川の遊里の妓楼や女郎。品川の妓楼では二、三の下級女郎のみを張見世に出し、その正面の唐紙に店や女郎の名や合印を書いたところからいう。
    1. [初出の実例]「から紙を品々こすと大仏」(出典:雑俳・柳多留‐二一(1786))

とう‐しタウ‥【唐紙】

  1. 〘 名詞 〙 中国南部地方産の紙の総称。古くは楮皮を原料とし、奈良時代から写経用紙などに輸入した。室町時代以降輸入されたものは竹を主原料とし、質はもろいが墨ののりがよく、書画に多く用いられた。上等品を毛辺、下等品を連史と呼ぶ。
    1. [初出の実例]「件賛、白唐紙二枚に書たり」(出典:古今著聞集(1254)五)

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改訂新版 世界大百科事典 「唐紙」の意味・わかりやすい解説

唐紙 (からかみ)

広義には,中国から渡来された紙をいう。必ずしも唐時代には限定されず,幅広く使われている。平安時代の文学には,たびたび〈からのかみ〉〈からかみ〉が出てきて,消息(手紙)などに愛用されていたことがわかる。狭義には,中国の華麗な文様で装飾した紙をいう。この手法は,紙の全面に胡粉(ごふん)を塗り(具引き),その上に雲母の粉末を版木で刷ったもので,きらきら光るところから,〈きら〉〈きらきら〉などとも呼ばれた。本来,中国から渡来したものだが,日本で同じ文様を写して版木に彫り,類似の装飾紙を作るようになった。したがって,中国からの輸入が途絶えたあと,日本でこれに似せて作られた〈からかみ〉は和紙に装飾がほどこされている。《西本願寺本三十六人集》などは,和製の〈からかみ〉が使われているという。

 この装飾紙を指していう唐紙を,平安時代には書の料紙として使っていたが,中世以後は唐紙障子にはる,いわば現在の襖(ふすま)紙に相当する使い方が主となった。このため,のことを〈唐紙(からかみ)〉と呼ぶことがある。

 中世には唐紙を〈からかみ〉と呼ぶほかに,〈とうし〉とも呼ぶようになった。この場合は,中国で竹を原料としてすいた画仙紙用の毛辺紙を指すものと思われる。〈とうし〉を日本ですく試みは,江戸時代以後行われてきたがあまり盛んにならなかった。中国流の書道用紙製紙が盛んになったのは,昭和20年代の後半からで,この場合は主原料が木材パルプ等で,名称も画仙紙と呼ばれている。
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唐紙 (とうし)

唐紙(からかみ)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「唐紙」の意味・わかりやすい解説

唐紙(とうし)
とうし

中国南部で生産される種々の紙の日本での総称。奈良時代までにアサ(麻)またはコウゾ(楮)を原料とした溜(た)め漉(ず)き法による製品が、主として写経用として輸入されていたことは、正倉院宝物にみられる。平安時代には染め紙が貴族社会でもてはやされたようすも、当時の王朝文学作品などからうかがえる。中世になると、品質や生産量においては和紙が優位をみせるようになるが、それでも唐紙は、その後、原料に竹の繊維を応用する方法が完成するなど、墨書きになお特有の雅趣があったため珍重された。江戸時代にも多く輸入され、上等品は毛辺(もうへん)、下等品は連史(れんし)とよばれた。一方和唐紙とよばれる模造品も、江戸や水戸、薩摩(さつま)(鹿児島県)などでつくられた。

 同じ唐紙も「からかみ」と読む場合、後世では襖(ふすま)紙あるいは襖自身のことをさすが、これは、室町時代から板戸にかわって紙の障子が流行し、襖に輸入紙を張ったことからの名残(なごり)である。

[町田誠之]


唐紙(からかみ)
からかみ

遣唐使船などによって中国から渡来した紙。平安時代に、模様のある唐紙が衝立(ついたて)や襖(ふすま)障子に張られるようになり、室町時代以後は国産の優れた品も普及したが、江戸時代になると襖専用の紙を「から紙」、中国産の紙を「とう紙」とよんで区別し、襖そのものを「からかみ」とよぶようになった。

 木村青竹(せいちく)編『紙譜(しふ)』(1777)に、「縦九寸九分、横一尺六寸、是襖(これふすま)、屏風(びょうぶ)の上張紙にて模様数品、金銀泥まがひ等、おのおの其好に随(したが)ふ」とあり、現在のような襖1枚の大きさではなく、1枚ないし12枚の小形紙の模様を張り継いだ。胡粉(ごふん)、雲母(うんも)、金銀砂子(すなご)、漆などを使って加工した紙は、江戸時代に光悦紋様などとともに流行し、有名社寺、商家、家元・宗家などが専用の版木を彫らせて、唐紙師を繁盛させた。現在は京都でただ1軒だけが伝統の技術を伝承し、茶室や数寄屋造(すきやづくり)の内装用として愛好されている。

[町田誠之]

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百科事典マイペディア 「唐紙」の意味・わかりやすい解説

唐紙【とうし】

コウゾと竹を原料とした中国渡来の紙。紙面が粗剛で,墨汁の吸収がよい。用途は書画用,表装の裏打ち用など。19世紀初めころからコウゾ,ガンピ(雁皮)を原料として唐紙に似せて作られた国産の紙を和唐紙というが,のちにこれも唐紙と呼ぶようになった。近年ミツマタを主原料としたものもある。
→関連項目半切

唐紙【からかみ】

中国から渡来した紙と,それに似せて作った和紙の両方があり,いずれも種々の模様が胡粉(ごふん),雲母の粉末などで施してあるものを指す。はじめは遣唐使や僧が中国から持ち帰ったものを書の料紙として使用したが,中世以降衝立(ついたて)や障子に張られるようになり,現在の襖(ふすま)紙に相当する使い方が主となった。このためのことを唐紙とよぶことがある。
→関連項目和紙

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「唐紙」の意味・わかりやすい解説

唐紙
からかみ

(1) (ふすま) の異称。 (2) 平安時代に将来された中国製の紙。鳥の子紙のような紙に各色の具引 (ぐび) きをし,雲母で文様を刷り出した紙をいう。文様には唐草,亀甲,七宝つなぎ,波など種々ある。初め北宋から輸入したので唐紙と称したが,のちには和製の模様のある紙をも唐紙と呼ぶようになり,かなの料紙に多く用いられた。現存,最古の唐紙は 11世紀中頃に輸入された,『粘葉本和漢朗詠集 (でっちょうぼんわかんろうえいしゅう) 』の料紙。

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世界大百科事典(旧版)内の唐紙の言及

【唐紙】より

…《西本願寺本三十六人集》などは,和製の〈からかみ〉が使われているという。 この装飾紙を指していう唐紙を,平安時代には書の料紙として使っていたが,中世以後は唐紙障子にはる,いわば現在の襖(ふすま)紙に相当する使い方が主となった。このため,のことを〈唐紙(からかみ)〉とよぶことがある。…

【画仙紙(画箋紙)】より

…中国の書道用紙を日本で模倣して,製紙したもの。本来,江戸時代に中国から輸入された紙(唐紙と総称した)の中に,画牋紙(雅仙紙・画箋紙など)の名の紙があった。これは中国の有名な紙で書画に用いる宣紙にちなむ名といわれる。…

※「唐紙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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