血槍富士(読み)ちやりふじ

改訂新版 世界大百科事典 「血槍富士」の意味・わかりやすい解説

血槍富士 (ちやりふじ)

内田吐夢(とむ)監督の時代劇映画(1955)。東映作品。大井川の川止めにあった宿場を舞台に,さまざまな人々の姿が,大金を所持する者や挙動不審の者をめぐる泥棒騒ぎ,女衒(ぜげん)に売られていく娘の身の上などの数々の挿話を通じていわゆる〈グランド・ホテル形式〉で描かれ,そのなかで,若殿を殺された槍持ちの権八が数名の侍を相手に闘い,仇討を果たすに至るさまをつづる。抑揚のきいた演出と権八役の片岡千恵蔵名演とによって,前半,酒乱ながらも人のいい若殿に対する権八の思いやりがあたたかく描き出され,ラストは一転,えんえん長い凄絶(せいぜつ)な死闘のなか,槍をふるって闘う権八の憤怒が,下層の人間,追いつめられた者のエネルギーの爆発としてくりひろげられる。井上金太郎原作脚色・監督,月形龍之介主演《道中悲記》(1927)の映画化で,第2次世界大戦中から9年間の中国生活を経て,1953年に帰国した内田吐夢の戦後第1作。なお,月形龍之介がこの作品に,かつて娘を売った男に扮して出演している。
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