街の入墨者(読み)マチノイレズミモノ

改訂新版 世界大百科事典 「街の入墨者」の意味・わかりやすい解説

街の入墨者 (まちのいれずみもの)

1935年製作の日活映画。山中貞雄監督作品。35年に日活と年4本の契約を結んで本格的に映画に進出した前進座との提携第2作で,その後《河内山宗俊》(1936),遺作となった《人情紙風船》(1937。PCL映画)と続く,山中貞雄と前進座のコンビの出合いの映画でもある。長谷川伸の戯曲《町の入墨者》(1927)を原作としているが,脚本を書いた山中がエルンスト・ルビッチErnst Lubitsch監督のアメリカ映画《私の殺した男》(1932)を参考にしたと語っているとおり,外国映画から学んだ技巧をとり入れて自由に脚色した。世間から迫害されるひとりの入墨者(前科者)とその妹夫婦一家との生活,庶民的な人情の世界を共感をもって見つめ,身のあかしを立てて〈真人間〉にかえるには命まで捨てなければならない〈前科者の疎外〉を描いている。

 当時,日本映画をリードした時代劇の全盛はすでに終わりかけており,あわれな入墨者の生涯主題とした《街の入墨者》は,〈社会的正義〉というものに対する素朴な疑問を訴えた,いわゆる〈ちょん髷をつけた現代劇〉の傑作の一つである。また,29歳の若さで戦病死した山中貞雄が,たんなる才気ばしった技巧派ではないことを示す作品でもある。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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