改訂新版 世界大百科事典 「裁かるるジャンヌ」の意味・わかりやすい解説
裁かるるジャンヌ (さばかるるジャンヌ)
La Passion de Jeanne d'Arc
1928年製作のフランス映画。監督はデンマークのカール・テホ・ドライヤー。ジャンヌ・ダルクの裁判と処刑を1日という時間と一つの場所に限定して描いた作品で,中心になる法廷場面の裁判官たちとジャンヌの問答は徹底してクローズアップ(および超アップ)の連続と会話字幕(スポークン・タイトル)の多用でつないでいき,〈限りなくトーキーに近づいた〉とされるサイレント映画の名作。映画出演はこれ1作だけの舞台女優ファルコネッティがジャンヌを演じ,メーキャップなしのその素顔は映画史上もっとも美しいクローズアップといわれ,ジャン・リュック・ゴダール監督の《女と男のいる舗道》(1962)では,映画館でそれを見ているヒロインの娼婦ナナ(アンナ・カリーナ)が涙を流す顔が大写しになるという形で〈引用〉とオマージュが行われている。また,ロベール・ブレッソン監督が,これに対して,手や足や物の断片的な超アップ以外は徹底してクローズアップを避け,バストサイズやミディアムショットで描き切った《ジャンヌ・ダルク裁判》(1962)を撮っている。
執筆者:広岡 勉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報