翻訳|close-up
被写体(あるいはその一部)を大写しにする映画特有の技法の一つ。カメラを接近させるという方法そのものは,望遠レンズやズームレンズが発案される前に生み出された。その創始者は,映画史家の間にも諸説があるが,〈映画芸術の父〉D.W.グリフィスとする説が古くからあり,アンドレ・マルローの《映画心理学概論》(1946)によると,グリフィスがリリアン・ギッシュの顔の美しさに心うたれたときこの技法が生まれたという伝説もある。しかしクローズアップそのものは,世界最初の映画撮影所といわれるエジソンの〈ブラック・マリア〉の設計者で,35ミリフィルムの発明者でもあるW.K.L.ディクソンの《フレッド・オットのくしゃみ》(1899),写真家出身のG.A.スミスの《祖母の読書用拡大鏡》(1900),スコットランドの化学者でイギリス映画の先駆者J.ウィリアムソンの《大食漢》(1901)などの中でも,すでに,すなわちグリフィス以前に使われていたことが明らかにされている。エドウィン・S.ポーターの《アメリカ消防夫の生活》や《大列車強盗》(ともに1903)の中にもクローズアップが使われている。映画評論家H.A.ポタムキンは,《シアター・ギルド》誌(1930)で,メリー・ピックフォード主演《網を繕う人》(1912)でグリフィスが初めてクローズアップを〈芸術的に〉使ったと指摘しているが,1908年から16年間グリフィスに協力したカメラマン,ビリー・ビッツァー(1872-1944)の自伝的回顧録《ビリー・ビッツァー,ヒズ・ストーリー》(1973)によると,グリフィスの《イノック・アーデン》(1911)で,ロングとフルサイズを主体にした当時の映画の描写の中に,決定的な1点を瞬間的にとらえて挿入することによって他のすべてを省略する劇的なクローズアップを使ったことになっている。と同時に,例えばバストサイズでとらえられた人間の顔だけを円で囲んでその表情だけを浮き上がらせたり,双眼鏡でのぞいて見たロングの風景の一部を,双眼の形に囲んでそのようすを浮彫にするといった〈アイリス〉の技法にもクローズアップと同じ志向が見られた。いずれにしても,クローズアップを〈モンタージュ〉の一環として使い,映画を空間的束縛から解放したという意味では,グリフィスこそ真のクローズアップの創始者ということができる。カール・テホ・ドライヤー監督《裁かるるジャンヌ》(1928)は,クローズアップを最大限に活用した作品(ラストの処刑と群衆のシーンを除けば,全編ジャンヌ・ダルクと司祭たちとの顔のアップの対決になっている)として知られている。
執筆者:柏倉 昌美
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…ジャン・リュック・ゴダールは〈すべての映画はアメリカ映画である〉といっている。クローズアップやモンタージュなどさまざまな映画的手法を開発し,それらを駆使して巧みに長編の物語を語ることをはじめ,それ以後のすべての映画の基礎を築いたのは,〈アメリカ映画の父〉D.W.グリフィスであった。また,スターシステムや撮影所のシステムをはじめ,映画の製作,配給,興行のしくみなど,映画のあらゆる側面を通じて,〈アメリカ映画〉から生まれ発展し,各国の映画にもたらされたものは数多い。…
…一つは,空間の描写の断念である。それは極端なクローズ・アップあるいは,周囲を闇に包むことによって行われた(カラバッジョ,レンブラント)。他は,遠近法理論の極限までの利用によって,平たんな面に円筒形の空間のだまし絵を描くこと(イリュージョニズム)で,この代表例がアンドレア・ポッツォとその後継者である。…
※「クローズアップ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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