視覚的探索(読み)しかくてきたんさく(その他表記)visual search

最新 心理学事典 「視覚的探索」の解説

しかくてきたんさく
視覚的探索
visual search

視覚情報の中から特定の対象を見つけ出す際に働く認知過程。その過程を調べるための課題を視覚的探索課題とよぶ。視覚的探索課題では,実験参加者に探索画面を提示し,その中から事前に指示された対象(標的刺激,またはターゲット刺激ともいう)を見つけ出すことを求める。探索画面には標的刺激とは異なる刺激(妨害刺激)が複数呈示される。典型的な視覚的探索課題では,一つの実験ブロック中,半数試行では探索画面に標的刺激が含まれ(標的あり試行),残りの半数の画面には含まれない(標的なし試行)。実験参加者は,画面ごとに標的刺激の有無を判断する(通常はキー押し反応による)。探索画面が提示されてから判断がなされるまでの間の時間が反応時間として計測される。独立変数は探索画面中の全刺激要素数であり,通常3~5水準程度から成る(4,8,12,16,20個など)。標的なし試行では全要素数は妨害刺激個数と一致し,標的あり試行では目標刺激が1個呈示され,残りが妨害刺激となる。結果は,要素数(横軸)に対して平均反応時間を,標的あり試行と標的なし試行に分けてプロットする。反応時間の関数(探索関数とよぶ)は1次関数によく当てはまり,当てはめた関数の傾きに基づいて結果の解釈が行なわれる。

 探索関数の傾きは,探索画面中の標的刺激の見つけやすさを反映すると考えられることから,探索効率search efficiencyともよばれる。標的刺激と妨害刺激が一つの視覚的特徴(色,明るさ,傾きなど)で異なっている場合(このような探索のことを特徴探索とよぶ)には,探索関数の傾きは,標的あり試行,標的なし試行ともにゼロに近くなる(例:灰色の対象からなる妨害刺激中に一つだけ赤色の標的刺激があるような場合など)。探索関数の傾きがゼロに近いということは,妨害刺激の個数が増加しても反応時間が変化しないことを示す。つまり,多くの妨害刺激の中であっても,標的刺激が直ちに見つかる。このような現象を,画面から標的刺激が「飛び出して見える」かのような比喩を用いて視覚的ポップアウトともよぶ。また,探索関数の傾きがゼロに近い視覚的探索を効率的探索efficient searchとよぶ。

 一方,標的刺激と妨害刺激の間の視覚的な類似性が高くなる,あるいは妨害刺激の均質性が低くなり,妨害刺激の種類が多様になると探索関数の傾きがゼロよりも大きくなる(通常は数十ミリ秒)。このような探索は非効率的探索inefficient searchとよばれる。典型的な結果では,標的あり試行の探索関数の傾きが,標的なし試行の探索関数の傾きの半分になる。標的あり試行では,逐次的に標的刺激の探索を行なうと,平均すると全体の半数の刺激要素を調べた段階で標的刺激が見つかるのに対して,標的なし試行ではすべての刺激対象を調べ終わった段階で標的刺激がないことがわかるからである。代表的な非効率的探索に結合探索conjunction searchがある。結合探索では,2種類の視覚的特徴の組み合わせによって標的刺激が妨害刺激と区別できる。たとえば,赤い垂直長方形が標的刺激,赤い水平の長方形と緑の垂直の長方形が妨害刺激などである。また,標的刺激と妨害刺激の役割を入れ換えると,探索効率が大きく異なる場合がある。このような探索の性質を探索非対称性search asymmetryとよぶ。

 視覚的探索の過程を説明するためのモデルとしては,トリーズマンTreisman,A.が提唱した特徴統合feature integrationモデルやウォルフWolfe,J.が提唱した誘導探索guided searchモデルが代表的である。 →視覚
〔熊田 孝恒〕

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