観世栄夫死去(読み)かんぜひでおしきょ

知恵蔵 「観世栄夫死去」の解説

観世栄夫(ひでお)死去

能や現代演劇、映画に出演し、新劇の演出もしたマルチ演劇人である観世流シテ方能楽師の観世栄夫が、2007年6月8日に大腸がんのため亡くなった。79歳だった。戦後能楽界で、伝統と現代の問題を考えて果敢に演劇実験をした兄の観世寿夫(1925〜78年)、弟の静夫・8世銕之丞(1931〜2000年)3兄弟の見事な終幕だった。 栄夫は1927年に観世宗家の分家である観世銕之丞家次男として生まれながら、49年に喜多実に師事した。異流に対して厳しい姿勢をとる縦割り社会の能楽界の中では極めて珍しい。横断的な表現活動をした栄夫らしい修業ぶりだった。3兄弟で「華の会」を結成し、戦後能楽界に新風を吹き込んだ。58年に能界を離脱後は、現代演劇の劇団青芸やアングラ小劇場の自由劇場創立に参加し演出をした。70年には、能・狂言、新劇の俊秀が集まった「冥の会」結成に参加し、「オイディプス王」などジャンルを越えた演劇活動をした。79年には能界に復帰し、伝統劇と現代劇の両面で精力的な仕事を成し遂げた。また映画「砂の女」「鉄輪」「利休」などにも出演するなど、越境する活動は、伝統をいかに現代に再生させるかの苦闘そのものだった。保守的で、自足しがちな古典芸能世界の中で常に挑戦する姿は多くの演劇人に刺激を与えた。

(山本健一 演劇評論家 / 2008年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android