刺激(読み)しげき(英語表記)stimulus

  • ,Reiz
  • 刺激 stimulus
  • 刺激/刺×戟
  • 英・仏

翻訳|stimulus

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

生体に働いて,生体細胞の活動を誘発するような作用因をいう。外界内界の条件の変化はすべて刺激になりうるが,受止める細胞側の興奮性によって,ある程度以上の強さの刺激でないと反応を起さない。反応を起させうる最小刺激の強さを刺激値という。心臓のように刺激がなくても自動的に興奮するものもあるが,これも細胞内の化学的変化が一種の刺激になっていると考えられる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

デジタル大辞泉の解説

[名](スル)
生体に作用してなんらかの現象や反応を起こさせること。特に、知覚や感覚に作用して反応を起こさせること。また、その原因となるもの。「学習意欲を―する」「都会は―が強い」
物事の動きを活発にさせるきっかけとして、外から作用すること。また、そのもの。「景気を―する」

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

百科事典マイペディアの解説

一般に生体の個体・器官・組織・細胞に何らかの反応をひき起こすような外的作用(または作用因)をいう。外的作用は感覚器にとらえられてはじめて刺激となる。あまり弱い刺激は無効で,有効・無効の限界を刺激の(いき)という。閾が小さいということは感度の高いことを示す。→感覚
→関連項目興奮

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典 第2版の解説

生物に作用して特定の反応をひきおこす要因を,一般に刺激という。ふつう,外的条件の変化がそれに対応した感覚器でとらえられて刺激となるが,気温の変化のように全身的に作用する場合もある。刺激によってひきおこされる反応には,反射的におこるまばたきのように局部的な場合もあり,特定のリリーサー(または鍵刺激)によって特定の行動が解発されるときのように全身的なものもある。また一時的なものでなく,形態形成のように持続的な反応がひきおこされる場合もある。

出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

生物の細胞、器官、個体に、ある反応を引き起こさせる原因をいう。つまり、刺激とは、生物に反応をおこさせるような外界の条件変化ということができる。刺激の結果おこる反応は、生物の働きを盛んにするような場合が多く、こうした反応を興奮という。しかし、刺激によっては生物の働きを逆に抑える場合もあり、これを麻痺(まひ)または抑制という。

[真島英信]

刺激と受容器

刺激が生物に作用する場合、その刺激を最初に受け入れて反応をおこすものは特定の細胞である。これを受容細胞または受容器という。たとえば光刺激の場合、その受容器は目の網膜にある錐状体(すいじょうたい)や桿状体(かんじょうたい)とよばれる細胞で、これらがまず光に反応して興奮し、その興奮を視神経を通して脳に伝える。このように、ヒトや動物においてはいろいろな種類の刺激に応じてそれぞれ受容器が備わっている。つまり、ある受容器はある特定の刺激に対してのみ反応し、かつ、その受容器が興奮をおこすのに必要とする最小の刺激の強さが低く、感受性が高い構造をもっているわけである。こうした特定の刺激をその受容器の「適当刺激」という。たとえば網膜の錐状体(光受容器)に対する適当刺激は光刺激であり、内耳の有毛細胞(聴覚受容器)に対する適当刺激は音刺激である。そのほか、適当刺激と受容器との組合せとしては、味覚刺激に対する舌の味蕾(みらい)にある味細胞、嗅覚(きゅうかく)刺激に対する鼻粘膜の嗅細胞、温度変化に対する皮膚のルフィニ小体やクラウゼ小体、触圧刺激に対する皮膚のマイスナー(マイスネル)小体やパチニ小体などが知られている。痛覚刺激の場合は特定の受容器がみられず、痛覚神経の末端が直接刺激されると考えられている。このような神経末端を自由神経終末とよんでいる。

[真島英信]

興奮のメカニズム

このように、刺激は通常その刺激を適当刺激とする受容器を通じてのみ受け入れられるわけであるが、電気刺激のみはすべての受容器を興奮させるほか、受容器でない筋肉や神経細胞にも直接作用して、これを興奮させることができる。電気刺激がこうした作用をもつのは、細胞の興奮のメカニズムが電気的な性質をもつためである。すなわち、ある受容器に適当刺激が与えられると、まず、その受容器の細胞膜に脱分極、すなわち膜電位の減少がおこる。ついで、これが接続している感覚神経の末端に脱分極をおこさせ、その結果、感覚神経にインパルス(伝導性の電気的興奮)が発生する。つまり神経線維の細胞膜にある一定の脱分極がおこると、インパルスが発生し、それが伝播(でんぱ)していくという性質である。電気刺激を直接神経線維に与えた場合も同様で、電流が細胞膜を外向きに流れると、その部に脱分極がおこってインパルスが発生する。筋線維にも神経線維と同じ性質がある。インパルスが発生すればその細胞は興奮したといえる。興奮は脱分極部におこるため、外から電極を当てて電気刺激を加えた場合は陰極部が刺激になる。しかし、刺激があまり微弱な場合は興奮はおこらないため、興奮をおこすにはある一定の強さが必要となる。興奮をおこすに必要な最小の刺激の強さを「閾値(いきち)」という。閾値より強い刺激に対してつねに一定の大きさの反応(興奮)がおこる場合、その反応は「全か無かの法則」に従うという。たとえば単一神経線維のインパルスの大きさは刺激の大小にかかわらず一定であり、「全か無かの法則」に従っている。これに対して刺激が強いほど反応も大きくなる場合、その反応は段階的であるという。

[真島英信]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

最新 心理学事典の解説

狭義には,生体の感覚受容器に作用する物理的ないし化学的エネルギーを指すが,広義には,生体における反応や行動を規定する要因や条件を指す。また,情報informationとほぼ同義に用いられることもあるが,情報の意味する範囲は広く,解釈が定まりにくい場合もある。感覚・知覚研究における刺激は比較的狭義の意味で用いられることが多いが,心理学では,刺激と反応の関係を通して,その過程を系統的に検証する立場から,それぞれの実験や研究目的に応じて適切な刺激の設定と記述が求められる。

【刺激強度と閾】 正常な感覚を生じさせるには,受容器に適切な感覚刺激sensory stimulusが入力されなくてはならない。たとえば,眼に対する光,耳に対する音など,受容器が本来受け取るべき特定の刺激は適刺激適当刺激)adequate stimulusとよばれる。一方,眼に対する圧刺激や紫外線などは不適刺激(不適当刺激)inadequate stimulusとなる。ただし,瞼の上から手で眼球を押さえるなどしても光を感じることがあるように,不適刺激でも感覚が起こる場合がある。

 一方,適刺激があっても,その刺激強度が弱いと感覚は生じない。感覚が生じるか生じないかの境界点,すなわち反応を起こすのに必要な最小の刺激強度を刺激閾stimulus thresholdとよぶ。また,刺激閾よりも弱い刺激を閾下刺激subliminal stimulus,刺激閾よりも強い刺激を閾上刺激supraliminal stimulusとよぶ。刺激閾は,刺激間の差異を感覚的に弁別できる最小の差である弁別閾difference threshold,または丁度可知差異just noticeable difference(jndとも略記)と区別する意味で,絶対閾absolute thresholdともいう。ちなみに,文字や単語など具体的な対象を知覚できる最小の呈示時間や刺激強度は,認知閾recognition thresholdとよばれる。

 刺激は強すぎると,感覚は変化しないか痛みに変わる。適刺激に対して感じられる上限の刺激値を刺激頂terminal threshold,terminal stimulusとよぶ。刺激頂は一般に刺激強度が非常に大きいことから,その測定には困難を伴うとされる。

【恒常性と刺激等価】 感覚器で受容された刺激は,その外界における物理的特性とは異なっている。たとえば視覚系の入力において,外界の3次元の対象は2次元の網膜像に変換される。ブルンスウィックBrunswik,E.は,外界における対象を遠刺激distal stimulus,網膜における投影像を近刺激proximal stimulus(網膜像)として両者を区別した。近刺激はさまざまに変化するが,われわれは対象の大きさや形などの特徴を比較的一定に保つ知覚の恒常性perceptual constancyの機能をもっており,それにより外界と適切に相互作用している。

 恒常性は刺激の処理において,融通性と効率性を兼ね備えた知覚機能であるといえる。この現象に関連するものとして,刺激等価性stimulus equivalenceとよばれるものがある。ある刺激に対して弁別学習が成立したとき,物理的には異なる刺激であっても,観察者にとっては,それらの刺激の相違が知覚されずに同一の反応を生じさせることがあり,このとき,それらの刺激を等価であるという。刺激等価性の実験は,ある刺激に条件づけられた反応が,他の刺激に対してどの程度まで般化するかを吟味するという点で,刺激般化stimulus generalization(般化generalization)の一側面を検討することに相当する。ただ一般的には,刺激般化の実験では,特定の物理的次元(たとえば音の周波数)において定量的に異なる刺激に対する反応を吟味するのに対して,刺激等価性の実験では,より広範な刺激の変化を吟味する。たとえば,円と正方形を用いて,正方形を正刺激として学習した後,正刺激の形状と提示方向をさまざまに変化させ,それが正刺激と等価であるか否かを吟味する。さらに刺激の形態だけでなく,刺激の図と地の色を反転させたり,面積も同時に変化させるなどする。このような複合的な変化条件における等価性の吟味は,知覚レベルを超えて,概念が成り立つか否か(ある概念において複数の属性の採否を判断する)という思考レベルの問題にまで至ることもある。

 等価性の問題は,情報処理の入力系でいえば,刺激の性質を判別するパターン認識にも関連する。たとえば,音声データから人間の声を認識して解釈する音声認識,画像データの中から文字を認識して出力するテキスト変換,特定のキーワードを認識して抽出する文書検索などが,パターン認識の問題に含まれる。人間の脳では一見当たり前のように思われるこれらの処理をコンピュータ技術で実現しようとする際には,精度と速度どちらの面についても困難を伴う。しかし近年,自然情報処理の分野だけでなく,人工知能や統計研究と融合して大きな成果を上げている。

【錯誤の古典的概念】 刺激の物理量とそれに対する感覚量の関数関係を定量化し,精神物理学的測定法を確立したのはフェヒナーFechner,G.T.であった。すなわち,精神物理学の目的は,S-R(stimulus-response)関係の観測を通して,S-S(stimulus-stimulus)間の関数(知覚関数)を追究することである。これに対し,ティチナーTitchener,E.B.は感覚主義の立場から,心理学と物理学における「経験」の扱い方は異なるとして,これらの混同を批判した。つまり,心理学が扱う経験は物理的次元とは異なり,心理学特有の性質をもち,その法則に従って生じるとした。そして,物理的刺激の性質がそのまま経験されるという考えに陥りやすいことを刺激錯誤stimulus errorとよんだ。またこの立場においては,心理的要素へと還元できない非直感的な意識内容も一種の刺激錯誤であるとみなされた。ティチナーの造語にならって,ケーラーKöhler,W.は,経験錯誤experience errorの概念を提示した。これは,日常の経験として知覚的にまとまって一体を成しているもの(体制化)に対応して,刺激作用の側にも体制化が存在するかのように思い誤ることを指す。たとえば,視覚系において,複数の黒い点が円形に配置されて見えるのは網膜像が円形であるからだとする考えのことで,本来直接経験によってのみ得られる知覚的特性を近刺激(網膜像)の特性とみなす錯誤のことである。 → →恒常現象 →精神物理学的測定法
〔池田 まさみ〕

出典 最新 心理学事典最新 心理学事典について 情報

今日のキーワード

マラドーナ

[生]1960.10.30. ブエノスアイレスアルゼンチンのサッカー選手。アルゼンチンリーグ 1部に史上最年少の 15歳でデビュー。代表チームにも 16歳4ヵ月の最年少デビューを果たした。1979年,...

続きを読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android

刺激の関連情報