改訂新版 世界大百科事典 「賃金審議会」の意味・わかりやすい解説
賃金審議会 (ちんぎんしんぎかい)
政府が法定最低賃金を決定するさい,あらかじめ諮問する機関を設け,それの答申を得て決定する方式があり,その機関を賃金審議会という。一般に,労・使各代表のほか中立または学識経験者からなる3者構成である。イギリスの賃金審議会は,労使代表の妥協への斡旋(あつせん)をするのが中立委員の任務であると考えられ,最低賃金のほか,所定労働時間,有給休日,年次有給休暇,超過労働に対する割増率をも決める権限が与えられており,業種別に40以上も設けられている。有効な団体交渉機関が欠如している業種にこれを設けて,労使代表の団体交渉の代用品として運用することを主眼としている。
日本では,1959年の最低賃金法制定以前には労働基準法に基づく諮問機関として,中央賃金審議会(労働大臣の諮問機関)と地方賃金審議会(都道府県労働基準局長の諮問機関)との2種の賃金審議会があったが,最賃法制定によって,賃金審議会は最低賃金審議会に,中央と地方の各賃金審議会は,それぞれ中央最低賃金審議会,地方最低賃金審議会になった。両審議会とも,労・使各代表と学識経験者おのおの同数で構成されるが,権限はあくまでも諮問に応ずることに限定される。もっとも,必要によって建議ができる。以前には業種別の最低賃金の決定が主であったが,71年から地域包括最低賃金を決めるようになり,また近年は中央最低賃金審議会で四つのランク別の目安を決め,それを指示することになったが,実際には労使代表の同意を得られず,学識経験者委員のみの答申になっている。賃金審議会方式は,法定最低賃金の決定にさいし最も多く使用される方式である。
→最低賃金制
執筆者:藤本 武
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報