改訂新版 世界大百科事典 「越殿楽」の意味・わかりやすい解説
越殿楽 (えてんらく)
雅楽,管絃の曲名。越天楽とも書く。唐楽。平調(ひようぢよう)・黄鐘(おうしき)調・盤渉(ばんしき)調の三調子の曲がある。舞はなく,管絃のみで奏される。平調の曲が原曲ともいわれ,堀河天皇(在位1086-1107)のころに,仏事に際して奏するために笛の名手,大神惟季が盤渉調に渡したと伝えられる。黄鐘調に渡された年代は不明。平調の旋律は,平安時代に好まれたらしく,それに詞章を当てはめた〈越天楽歌物(うたいもの)〉も生まれ,〈越天楽今様〉として残されて福岡県の《黒田節》はその民謡化した例で《筑前今様》ともいう。箏曲の組歌は,寺院歌謡として伝承された越天楽歌物が源流と認められる。近代では宮城道雄作曲,近衛直麿・秀麿編曲の箏(そう)とオーケストラの協奏曲《越天楽変奏曲》もある。学校教育の中でも紹介され,雅楽曲の中ではもっともよく知られた曲である。早四拍子の小曲で,三つの部分から構成され,AABBCCAABBのように演奏する。
執筆者:加納 マリ
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報