デジタル大辞泉 「調子」の意味・読み・例文・類語
ちょう‐し〔テウ‐〕【調子】
2 言葉の表現のぐあい。音声の強弱や、文章などの言い回し。口調。語調。「意気込んだ
3 動作や進行の勢い。「
4 活動するものの状態・ぐあい。「からだの
5 音楽で、主音の高さによって決まる音階の種類。雅楽の
6 弦楽器の調弦法。
7 雅楽で、舞楽の一種の前奏曲。各楽器が順次演奏に加わり、同一旋律を追いかけて奏する。
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[類語](1)音調・音律・調性・音階・音程・音高・トーン・拍子・
日本音楽の理論用語。分野によっていろいろに用いられる。まず,中世や近世起源の声楽,あるいは民謡などでは,音高のことを漠然と調子といい,〈調子を低くとる〉とか〈調子をはずす〉などという表現が行われる。また近世邦楽で〈壱越(いちこつ)の調子〉〈六本の調子〉などというときは,楽曲演奏の絶対音高を意味する。
雅楽では,呂(りよ)・律(りつ)の別,および絶対音高が理論的に定められている音組織を調子といい,現在は唐楽に6種,高麗楽(こまがく)に3種の調子がある。唐楽は壱越調(壱越が宮(きゆう)。宮とは〈五音(ごいん)〉の主音をいう),平調(ひようぢよう)(平調が宮),双調(そうぢよう)(双調が宮),黄鐘調(おうしきちよう)(黄鐘が宮),盤渉調(ばんしきちよう)(盤渉が宮),太食調(たいしきちよう)(平調が宮)の6種で,六調子または唐楽六調子という。呂・律については,壱越調,双調,太食調の三つが呂,平調,黄鐘調,盤渉調の三つが律とされているが,管楽器が奏する主旋律に関するかぎり,いずれも理論どおりの音程関係にはなっていない。また黄鐘調は律であるのに,特定の曲にかぎって箏の調弦が呂であったり,逆に呂の太食調の曲でありながら,箏が律の調弦を行うものもある。
これら六調子の名称は,太食調の場合を除き,それぞれの宮の音にもとづいているが,実際の楽曲では,それらの音はかならずしも一曲の全体を支配するような機能をもっているとはかぎらない。しかし楽曲の演奏は,原則として各調子ごとに用意されている止め手,あるいは吹止め句を添付して終止させることになっており,その止め手や吹止め句は,いずれも各調子の宮で終止するから,楽曲の終止音に関しては,その曲が所属する調子の宮と一致する。しかし,六調子にとって,むしろそれ以上に重要なのは,各調子にはそれぞれ特有の旋(めぐ)り,すなわち旋律の動き方があることである。六調子の種類は,旋りの聞き分けによって判別できる場合が多い。また,渡物(わたしもの)の旋律が原調とすっかり変わってしまうのは,旋りの置換えによって移調が行われるからである。六調子は五行説と結びついて,四季に配されたり,葬儀には盤渉調の曲を用いるなどのこともある。
以上のほかに,枝調子(えだちようし)という概念があり,黄鐘調で箏を呂に調弦するものを水調(すいちよう)といったり,壱越調の中の特定の曲を沙陀調(さだちよう)とするなどがそれである。
高麗楽には三調子と総称する高麗壱越調,高麗平調,高麗双調がある。調子名と宮の音高との関係は,唐楽とは違って一致しておらず,高麗壱越調は平調,高麗平調は下無(しもむ),高麗双調は黄鐘を宮とする。この2律(長2度)ずつのずれは,使用する竜笛と高麗笛の音律の相違に起因する。三調子では呂・律の別を問題にすることは少ない。
以上に関連して,唐楽六調子の一つ一つには,篳篥(ひちりき)と笙(しよう)のそれぞれに《調子》という,非拍節的リズムの楽曲がある。同一の調子(音組織としての調子)に属する両楽器の《調子》は独特な方法で合奏され,その場合には羯鼓(かつこ)と竜笛も加わる。合奏されたものもやはり《調子》というが,竜笛が〈音取(ねとり)〉のみ吹く簡略な形を《調子笙三句》,竜笛が音取につづけて〈品玄(ぼんげん)〉という旋律を吹く本格的な形を《調子品玄》などと称する。笙と篳篥,および竜笛の〈品玄〉は,それぞれの楽器ごとに複数の声部に分かれて,時間的に少しずつずらせて吹く退吹(おめりぶき)という特徴的な吹き方をする。また竜笛が〈入調(にゆうぢよう)〉という旋律を吹き,かつ笙,篳篥,竜笛の3管がいっせいに退吹を開始する《調子入調》という形もある。《調子笙三句》は本格的な管絃または略式の舞楽の前奏に,《調子品玄》は本格的な舞楽の前奏に,《調子入調》は舞楽の後奏に,それぞれ用いられるのが原則といえる。楽曲《音取》は,この調子の極略形と考えられる。一方,高麗楽には《意調子》《狛調子》などという曲があり,いずれも特定の舞楽の前奏として用いられる。ただし同じ雅楽でも,歌物においては東遊(あずまあそび)に《狛調子》という小曲がある以外は,類似の概念があっても,それを調子とはあまりいわない。
次に近世邦楽では,箏や三味線などの弦楽器の調弦を調子といい,〈調子を合わせる〉〈調子を変える〉などと表現する。また調弦の名称にも,本調子,変調子(以上三味線),平(ひら)調子,雲井調子(以上箏)などという言い方をしばしば用いる。なお,かつて器楽の楽曲名に調子の語を用いた例があった。
→十二律 →六調子
執筆者:蒲生 郷昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
主として日本音楽の用語として用いられるが、洋楽の用語としても「調性」の意味で用いられることがある。(1)音律または音高の意味。たとえば「壱越(いちこつ)の調子」「六本の調子」(いずれも「ニ」の音)、あるいは「十二調子」(十二律のこと)など。また漠然と「調子が高い」とか「調子が外れる」などという用い方もある。弦楽器の調弦の際に用いる笛を「調子笛」という。(2)音階や主要音を規定する「調」の意味。雅楽の「六調子」「高麗(こま)三調子」などはこの用例。個々の調をいう場合は、音階の種類や主要音の音高によって「壱越調の調子」とか「盤渉(ばんしき)調の調子」などという。また洋楽でも調性を意味する語として「ロ短調の調子」などのように用いる場合がある。(3)弦楽器の調弦法の意味。三味線の「本調子」「二上り調子」、箏(こと)の「平(ひら)調子」「雲井調子」など。「調子をあわせる」「調子を変える」などという用い方もある。(4)曲名または曲種の意味。雅楽の管絃(かんげん)、舞楽の演奏に先だって、その曲が属する「調」を示すために奏される特殊な曲。各調に応じてそれぞれ異なる「調子」があり、「壱越調調子」とか「盤渉調調子」などとよぶ。自由拍節で、管楽器は各パートごとに主奏者のあとを助奏者がすこしずつ遅れて吹いてゆくという合奏法をとる。「音取(ねとり)」はこの「調子」を簡略化したものと考えられる。尺八本曲では前奏的な部分を「調子」とよんでいる派もあり、また箏曲(そうきょく)においては「段物」の曲を「調子物(しらべもの)」と総称する場合もある。
[千葉潤之介]
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…分野によっていろいろに用いられる。まず,中世や近世起源の声楽,あるいは民謡などでは,音高のことを漠然と調子といい,〈調子を低くとる〉とか〈調子をはずす〉などという表現が行われる。また近世邦楽で〈壱越(いちこつ)の調子〉〈六本の調子〉などというときは,楽曲演奏の絶対音高を意味する。…
…ただし,この名をもつ曲はいくつもあり,かつ,いずれもごく小規模,あるいは独立性が稀薄である。 雅楽には,唐楽六調子の音取その他がある。六調子の音取は各調子に一曲ずつあって,いずれも各調の《調子》(楽曲としての調子)を小規模にしたものである。…
…
【楽理】
大陸から楽舞とともにもたらされた理論や用語は,当初は実際の音楽と適合していたにちがいないが,やがて音楽のほうが変わってきたため,しだいに実態とかけはなれていった概念が多い。
[音階と調子]
平安時代以来の説によると,音階には宮・商・角・徴(ち)・羽の〈五声〉(五音(ごいん))を洋楽音階名のド・レ・ファ・ソ・ラに配する〈律(りつ)〉と,ド・レ・ミ・ソ・ラに配する〈呂(りよ)〉との2種があり,さらに宮音の位置によりそれぞれが3種の調をもつとされ,壱越調(いちこつちよう)(壱越),平調(ひようぢよう),双調(そうぢよう),黄鐘調(おうしきちよう)(黄鐘),盤渉調(ばんしきちよう)(盤渉),太食調(たいしきちよう)のつごう6種類の調が規定される(律呂)。これを唐楽六調子またはたんに六調子という(表2)。…
※「調子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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