日本大百科全書(ニッポニカ) 「軽印刷」の意味・わかりやすい解説
軽印刷
けいいんさつ
迅速性と経済性をねらった簡便な印刷。官公庁、学校、会社内で使用するおもにモノクロの文字の印刷物を手軽につくる目的で発達した。古くは、ゼラチンや寒天を用いたこんにゃく版、ろう原紙を用いた謄写版が利用され、素人でも容易に印刷できる方法として歓迎されていたが、その後タイプライターで印字し、オフセット平版印刷する方法に移行した。ただし、アルミニウムをベースとした刷版を使うのではなく、紙やフィルムをベースとした刷版を使う印刷で、多くても1000~2000枚程度、1~2色の印刷を軽印刷とよぶようになった。1990年代になると、ワードプロセッサー、パソコンの普及でいわゆるDTP(デスクトップ・パブリッシング)が盛んとなり、製版はアマチュアでも容易にできるようになり、さらにコピー機、簡易印刷プロセスの出現により、なんら修練を必要としない軽印刷ができるようになった。現在では、印刷産業のなかで軽印刷という分野がなくなったため、印刷産業の一分野を示す意味としては、このことばはほとんど使われない。
[山本隆太郎・中村 幹]