テングサなどの紅藻類を煮溶かして固めたもの(ところてん)をいったん凍結したのち乾燥した製品。寒晒(かんざら)しでつくる「ところてん」の意味からこの名がある。
[河野友美・大滝 緑]
1658年(万治1)の冬、参勤交代途上の島津侯が京都伏見(ふしみ)の旅宿美濃屋(みのや)太郎左衛門方で、食べ残しのところてんを戸外へ捨てたところ、寒夜のもとで凍結し、日中になると解けて乾燥し、鬆(す)の入った乾物になった。これをヒントに宿の主人が創製して売り出したのが寒天の始まりという。寒天の命名者は隠元隆琦(いんげんりゅうき)とも伝えられる。明和(めいわ)年間(1764~72)に摂津(大阪府)島上郡の宮田半平が伏見の寒天製法を習って大規模な製造を始めたが、天保(てんぽう)年間(1830~44)に信濃(しなの)国(長野県)諏訪(すわ)に伝わり、自然条件に恵まれた同地の名物となった。
[河野友美・大滝 緑]
天然寒天と工業寒天(フレーク状、パウダー状など)に大別される。天然寒天には棒(角)寒天と糸(細)寒天があり、冬季、屋外で自然凍結、自然解凍、天日乾燥でつくられる。両者の大きな工程上の違いは、ところてん(寒天ゲル)の脱水方法にある。天然寒天の製法は、乾燥したテングサなどの原藻を水で煮て木箱に入れて固め、これを戸外に並べ、1週間ぐらい零下5~零下10℃の寒気で凍結、5~10℃の低温で乾燥を繰り返す。原藻を煮溶かすときの水は、鉄分の少ないものがよい。ゼリー状のところてんは、凍結により寒天質と氷の結晶に分かれ、これが溶けるときに、寒天質と水とが分離する。この脱水工程を機械化してつくられるのが工業寒天である。(1)人工的に凍結→解凍→乾燥させたものがフレーク状寒天で、(2)凍結させないで、ところてんをただちに脱水→濃縮→乾燥させたものがパウダー状寒天である。かつては、工業寒天は純度は高いが粘性は弱いといわれたが、現在は、原料精製の手法などにより、目的の粘性のものをつくることができる。また、医学用、分析用、組織培養用の製品もつくられている。
[河野友美・大滝 緑]
炭水化物(主成分はアガロース、アガロペクチン)がおもで、消化吸収しにくい。したがって低エネルギー食品として利用されることも多い。煮熟して冷却すると40℃前後でゼリー化し、ゼリー化したものは80~85℃でないと溶けない特性をもつ。酸性になるとゼリー化力が低下する。
[河野友美・大滝 緑]
棒寒天のちぎったものやフレーク状寒天は、洗って絞り、水につけて加熱、パウダー状寒天は水に溶かして加熱して煮溶かす。棒寒天では1本に対して水2~3カップが標準である。砂糖や果物や牛乳などを加えてゼリー状に固める。寒天濃度1%のとき約30℃で凝固する。濃度が高いほど凝固は早い。また、砂糖が加わると凝固しやすくなる。卵白の気泡を入れた泡雪かん、2色の層状にしたものなどがつくられる。また、水羊かんなどの菓子原料や医薬品原料、微生物培養の寒天培地としても使われ、利用範囲は広い。
[河野友美・大滝 緑]
テングサなどの熱水抽出液の凝固物であるところてん(心太)を凍結乾燥した海藻加工品。ところてんはすでに奈良時代に食用にされていたが,江戸時代に至り,偶然戸外に捨てたところてんが寒気で凍り乾燥したことが契機となり製造されるようになったため,寒天と名付けられた。原藻はテングサ,オニクサ,ヒラクサ,オバクサなどのテングサ目に属するものが主であるが,スギノリ目のオゴノリなども用いられる。近年,原藻の一部はチリ,アルゼンチンから輸入している。
寒天は製法により〈天然寒天〉と〈工業寒天〉に分けられる。天然寒天の製造は,原藻配合,水洗,煮熟抽出,ろ過,凝固成形,切断,自然凍結,自然融解・乾燥の工程をとる。凍結~乾燥は数回反復し,最後に風乾して仕上げる。この間1~2週間を要し,原藻に対する製品の歩留りは15~30%である。長野,岐阜が主産地で〈角寒天〉〈細寒天〉がある。工業寒天の製法は天然寒天の製造工程を機械化したもので,ところてんを冷凍機により凍結し,注水解凍,圧搾脱水,熱風乾燥,粉砕の工程をとる。製品は鱗片状,粒状,粉末状などに仕上げる。なおオゴノリのみを原藻とした場合は,あらかじめアルカリ処理により凝固性を高める必要がある。工業寒天では立地条件に制限はなく,静岡,東京,千葉などが主産地であるが,近年国内だけでなく,韓国,インドネシア,デンマーク,スペイン,メキシコ,チリ,アルゼンチン,オーストラリアなどでも生産されている。
製品の成分はタンパク質,脂肪をほとんど含まず,大部分がD-ガラクトースおよび3,6-アンヒドロガラクトースを構成糖とする多糖類よりなる。品質は通常ところてんのゼリー強度により決められる。普通の細菌に対し著しく抵抗力があるため細菌培地など医薬用,工業用に用いられるほか,水に85℃前後で溶け,冷やすと約30℃でゲル状に凝固する性質が可逆的であるところから,ようかん,ジャム,乳製品,缶詰など食品加工用に使われる。また難消化性のためカロリー源としての栄養価は低いが,便秘を防ぐ効果があり,最近は低カロリー食品の素材としての用途が広がっている。
寒天の語が見られるようになるのは《和漢三才図会》(1712)あたりからで,同書には〈石花菜(ところてん)〉を寒夜に煮て屋外に置くと〈凝凍して甚だ軽虚なり,俗にこれを寒天と謂う〉とある。それに続けて,スオウで赤く染めたのを色寒天といい,伏見(現,京都市)でつくっていること,それが僧家の料理に重用されていることなどを述べている。寒天の使用によって大きな変化が生まれたのは菓子で,寛政(1789-1801)ごろ創製された練りようかんは圧倒的な人気を博したものであった。現在では練りようかん類以外にジャムやゼリーなどの製菓用に,また料理では口取りに使う甘味の寄せ物のほか,滝川豆腐のようなものに用いる。滝川豆腐は水から煮溶かした寒天液に,裏ごしした豆腐をまぜて冷やし固め,ところてんのように天突きで突き出して鉢に盛り,ワサビじょうゆや二杯酢で食べる。もみノリ,刻みネギなどを添える。
執筆者:山口 勝巳+鈴木 晋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
海藻類のテングサ科(Gelidium),オゴノリ科(Gracilaria),オキツノリ科(Ahnfeltia),そのほかに含まれる酸性多糖で,細胞間粘性物質.原藻を洗浄し,沸騰水で抽出して得られた粘性水溶液に,アルコールを加えて沈殿させる.また,加温溶液を冷却して得られたゲルを凍結,融解を繰り返して精製する.アガロース(80~28%)とアガロペクチンとからなる.アガロースは(1→3)結合のβ-D-ガラクトビラノースと(1→4)結合の3,6-アンヒドロ-α-L-ガラクトビラノースが交互に繰り返された構造を有し,アガロペクチンは多糖の混合物で,D-ガラクトース,3,6-アンヒドロ-L-ガラクトース,硫酸エステル,D-グルクロン酸からなっている.また,ピルビン酸がD-ガラクトースにケタール結合しているものもある.市販の寒天は白色透明で冷水に不溶であるが,多量の水を吸収して膨潤する.熱水に徐々に溶け,1~2% の熱水溶液を冷却するとゼリー状に凝固する.微生物培地,製菓原料に使われる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(中島富美子 フード・ジャーナリスト / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…実際,細胞分裂の直後に形成される最初の隔壁はペクチンであり,この隔壁の表層およびその内側にできる二次壁にセルロースが配列する。紅藻の粘質多糖としては寒天agarが知られている。この中でゲルを形成する成分はガラクトースとL‐アンヒドロガラクトースからなる多糖で,アガロースと名付けられている。…
…古代は《和名抄》にみえる淡気(たむけ)郷,中世は遠山荘に含まれ,近世は上手向(かみとうげ),下手向など5ヵ村が中山道大井宿(現,恵那市)の助郷であった。古くからの水田地帯で,寒天と陶土の町としても知られる。天然の寒天製造は冬の寒冷な気候を利用して昭和初期に始められたが,第2次大戦後は県立寒天研究所の指導によって化学寒天も製造され,県下有数の生産高をあげている。…
※「寒天」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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