タイプライター(読み)たいぷらいたー(英語表記)typewriter

翻訳|typewriter

日本大百科全書(ニッポニカ) 「タイプライター」の意味・わかりやすい解説

タイプライター
たいぷらいたー
typewriter

活字を一字ずつ鍵盤(けんばん)を押して印字し、文書を作成する書記機械。欧文タイプライター、仮名タイプライター、和文タイプライターがある。活字を使用するため、鮮明な印字が得られるのが特徴である。

[伊勢谷堅吾]

欧文タイプライター

アルファベットなど、おもにヨーロッパ、アメリカ諸国の表音文字を用いるタイプライター。

[伊勢谷堅吾]

歴史

1714年にイギリスのヘンリー・ミルHenry Millが特許を得た記録があるが、詳細はわかっていない。その後、ヨーロッパ、アメリカでの書記機械の考案は150年間に50以上が数えられるが、盲人用としての試作が目だっている。1850年代から、ことにアメリカでの考案が増加し、1870年代までに約20件が発表されているが、操作が複雑で印字速度も遅く、実用には至らなかった。なかには通信用テーププリンターの原型となったエジソンの発明も含まれている。

 最初の実用的タイプライターは、アメリカの印刷技術者ショールズChristoph Latham Sholes(1819―1890)が石油業者デンスモアJames Densmore(1820―1889)などの後援によって試作し、1868年に特許を得た。ショールズは以後5年の間に約30の試作機を考案し、1873年、ニューヨークの銃・ミシン・農耕機製造業者レミントン父子社に製作を依頼した。レミントンは特許権を買い取って改良を加え、翌1874年自社商標で販売を開始した。タイプライターという名は、ショールズが試作機に命名した固有名詞がのちに一般化したものである。

[伊勢谷堅吾]

構造

もっとも多く使用されている伝統的な構造のタイプライターは、(1)セグメント(四十数本のタイプバーの先に上下2字、合計九十数字の活字を固定し、扇状に配列してある)、(2)鍵盤部(各タイプバーに連結するキーと、上下2字を使い分けるシフトキー、そのほか作動キーが配列される)、(3)キャリッジ部(用紙を装着し印字位置を移動させる)、(4)補助機構(骨格部、各部分を結び関連作動させる)からなっている。

 鍵盤部のキーを押すと、その動きが関連機構に伝達され、所定の活字がインキリボン面を打ち印字され、キャリッジが次の印字位置に移動する。この操作の反復に改行などの補助動作を加えて文書を作成する。

 機種は安価な手動式小型から高級事務型まで多様である。携帯用機種にも電動や電子式のものがある。制御機構も電子化して、印字結果を記憶して自動的に所要文書を印字し、自由に校正・編集のできる機種もある。

 印字方式もタイプバーから、球形の表面に活字を配列し、固定した用紙面を移動しながら印字する方式に発展し、さらに円板状の櫛(くし)歯に活字を配列し、高速印字が可能な機種もある。活字も球形や櫛歯円板では金属から合成樹脂製に変わった。さらに打字音のない熱転写印字式のものも販売されるようになった。

 英語をはじめとするヨーロッパ諸語の表記に、タイプライターは不可欠である。レミントンのほぼ初期のころから鍵盤の配列も標準化し、キーを目視せずに操作するタッチメソードが確立されている。さらに、タイプライターによって確立された印字操作は、高度情報処理機器のインプット方式に継承され、重要度を増している。

 欧文タイプライターは広くヨーロッパ、アメリカなど諸国で生産されており、日本でも生産されている。

[伊勢谷堅吾]

仮名タイプライター

機構的には欧文タイプライターと同じである。1898年(明治31)黒沢貞次郎(ていじろう)(1875―1953)により創案された。仮名だけで文書を作成することが社会習慣上無理があるのでさほど普及せず、ことに日本語ワードプロセッサーの出現後はほとんど使用されなくなった。仮名タイプライターの鍵盤配列の基本は、コンピュータやワードプロセッサー鍵盤にも採用されている。

[伊勢谷堅吾]

和文タイプライター

漢字と仮名の活字を一字ずつ印字して文書を作成する書記機械。現在、その役目を日本語ワードプロセッサーやパーソナルコンピュータに譲り、市場も大幅に縮小している。

[伊勢谷堅吾]

歴史

1914年(大正3)杉本京太(きょうた)が試作機を完成し、1915年に特許を得た。翌1916年、日本書字機商会(現、キヤノンセミコンダクターエクィップメント株式会社)から実用機が発売されている。発売当初は字の間隔が一定の縦書き専用で、用紙もB5判大であった。しかし、構造も操作も簡単で、だれにも読みやすい鮮明な文書が複写によって同時に数枚つくれ、しかも製版の版下としても利用できるのでしだいに普及した。操作するタイピストも専門職として確立、キャリアウーマンの先駆けとなった。昭和10年代には代表的な事務機となり、縦横打ち併用、字間隔・行間隔多段変換、用紙サイズの多様化などの改良が行われた。機種、メーカーも増加したが、第二次世界大戦の激化とともに大部分が消滅した。

 戦後、経済の復興とともに需要も伸び、メーカーも増えた。戦後の傾向としては、高性能専門技能者用と一般用簡便型の分極化がある。高性能型は、活字による印字の鮮明さを生かして事務用以外に印刷業での製版用としても多数使用され、さらにコンピュータと連動して校正・編集機能も備えた機種も実現した。操作が簡単で価格の安い一般用としては、1964年(昭和39)杉本京次(京太の次男)の開発した小型和文タイプライターが広く普及した。

[伊勢谷堅吾]

構造

活字庫、作動と制御のための主機構部分、用紙を装着して書き進む部分、土台・骨格部分からなっている。

 欧文は100に足りない文字で十分だが、和文タイプライターは数千字種が必要である。また、必要な文字を速く捜し出すための、使用頻度・音訓・字形などによる区分整理の方式が必要となる。(1)活字庫には普通の文書を打つのにほぼ十分な亜鉛活字を配列し、それ以外の活字は体系に従って別箱に収容してある。書体はおもに明朝(みんちょう)体である。(2)ついで主機構を操作して必要な字を選び出す。索字方式には、直接活字庫の活字を見て行う直視式と、文字配列見出盤による間接式がある。印字キーを押すと、タイプバーが活字を抜き出してテープ面を打ち、活字を定位置に戻す。主機構とタイプバーが固定されて活字庫を動かす方式と、逆に機構とタイプバーを移動させて活字を拾う方式がある。制御は字間隔・行間隔の送り、一行の字詰めなどを設定する。

 和文タイプライターには、文字配列方式の違い、電動と手動、縦横打ち、字間行間設定、活字庫交換など諸機能の差、コンピュータ制御の有無などによって多くの種類があり、一般用、専門者用、特殊専用など用途によっても分類される。

[伊勢谷堅吾]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例