改訂新版 世界大百科事典 「辰市」の意味・わかりやすい解説
辰市 (たつのいち)
日本古代・中世の市。平城京東市の後身と考えられる。〈辰市〉の地名を諸史料から拾うと,旧左京7~9条の1~4坊(奈良市八条・八条西・八条東・杏・東九条・西九条の各町。この範囲が旧〈辰市荘〉にあたるのであろう)の広範囲に分布するので,これだけでは辰市が東市の故地を踏襲したか否かは明らかでない。そこで〈辰市西〉〈辰市ノ西キタ〉〈辰市ノ南〉等の方角表示をともなう呼称によって推察すると,辰市は旧8条2~3坊付近に存在したと考えられる。平城京の東市は8条2坊5・6・11・12坪に存在したので,この辰市の推定位置は,東市の場所そのもの,もしくはこれにかなり近いこととなる。したがって,辰市が平城京東市の後身である可能性は強いであろう。辰市は平安中期ごろには市として栄えていたらしく,《枕草子》に,大和では椿市,飛鳥の市とともに〈市は辰の市〉と記されている。また,中世にも繁栄を持続した。
→東市・西市
執筆者:栄原 永遠男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報