改訂新版 世界大百科事典 「遠隔地商人」の意味・わかりやすい解説
遠隔地商人 (えんかくちしょうにん)
Fernhändler[ドイツ]
中世のヨーロッパで隔地間の交易ならびにヨーロッパ外との交易にあたっていた職業的商人層。19世紀ドイツの歴史学派の発展段階説においては,中世は都市経済の時代とされているが,その経済範囲は都市と周辺農村を結ぶ狭いものとして構想されていた。この考えに対する補正ないし批判としてやがて強調されるようになったのが,中世における遠隔地商業の存在と重要性である。隔地間の価格体系の差を利用して大きな利潤を上げる職業的商人層はさまざまな時代のさまざまな土地に存在したが,この語は中世ヨーロッパに関連して用いられるのが普通である。
古代末期から中世初期において衰退していた西ヨーロッパの経済は,カロリング朝時代からしだいに発展し,10世紀には人口増大の兆しが現れる。この時代に北海,バルト海地域とイタリアを中心とする地中海地域で商人の活動が認められるようになり,11,12世紀には局地的な商業と遠隔地商業とがともに発達した。12世紀中葉にシャンパーニュの市が成立すると,北と南の商人たちはここで直接取引を行うようになった。さらにライン川沿岸の商人がこれに加わり,バルト海およびエルベ川沿岸の商業が結びつくことによってヨーロッパの経済的結合が強化された。初期の遠隔地商人は,みずから毛織物,皮革,香料などの商品を持ち,キャラバンを組んで各地の市や君主の宮廷をまわる遍歴商人であったが,13,14世紀には支店網を整備し,通信によって広範囲な商業活動を行う定住商人が出現した。彼らは金融や為替業務にも従事する銀行家でもあった。イタリア商人がその典型であり,フランスやイングランドの王室財政へもくいこんだ。遠隔地商人の扱う商品はもっぱら香料や上質毛織物などの奢侈品と考えられていたが,穀物,ブドウ酒,オリーブ油,塩魚,羊毛などの隔地間交易も盛んであったことが,近年指摘されている。
執筆者:清水 廣一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報