日本大百科全書(ニッポニカ) 「長江三角州」の意味・わかりやすい解説
長江三角州
ちょうこうさんかくす / チャンチヤンサンチヤオチョウ
中国東部、長江(揚子江(ようすこう))下流南岸にある三角州。長江中下游(ちゅうかゆう)平原の一部で江南三角州ともいう。太湖(たいこ)を中心とした盆地に海水が浸入して形成された海湾に、揚子江南岸から南東方向へ、また銭塘(せんとう)江北岸からも北東方向へ砂州が伸長して連端し囲い込んだ。さらにこの古砂州の外側に揚子江が運搬した大量の泥砂が堆積(たいせき)して新三角州が形成され、現在も成長を続けている。面積約5万平方キロメートル、うち新三角州は2.28万平方キロメートル。地形は平坦(へいたん)で大部分が標高10メートル以下であるが、揚子江沿岸と杭州(こうしゅう)湾岸がやや高く中央部は低いため排水が困難である。恵山、天平山、虞山(ぐざん)、狼山(ろうざん)など200~300メートルの丘陵も散在する。太湖をはじめ多数の湖沼があり、無数の運河と河川が網の目のように縦横に走る。唐・宋(そう)代以降、灌漑(かんがい)・排水技術の発達により中国の穀倉となった。水稲、小麦のほか、綿花、菜種、ジュート(黄麻(こうま))の生産も多く、太湖周辺では養蚕が盛んである。また湖沼、水路を利用して淡水養殖業も発達している。明(みん)代後半より綿・絹織物の生産が農村に普及し、繊維工業都市も数多く発達した。中国最大の貿易港で、大商業都市である上海(シャンハイ)は東端に立地する。
[林 和生]