翻訳|basin
( 1 )英語の basin は bowl ほどではないが、ある程度深みのある容器。地理学用語では「盆のような地」の意で使う。
( 2 )この「盆」は中国でいう、やや深みのあるうつわで、現在、日本でいう、食器などをのせる、平たくて浅いうつわとは異なる。
周囲をより高い標高の地殻で囲まれた凹地。盆地には、さまざまの形態・規模・位置・成因をもったものがあり、盆地内の起伏の特色も異なっている。盆地といえば、普通、陸上にあるものをさしている。しかし海底のさまざまの深度にあり、形態も異なる凹地は海底盆地(海盆)とよばれている。陸地から運搬される岩屑(がんせつ)が堆積(たいせき)される陸棚付近の凹地を、堆積盆地とよぶことがある。また陸棚から深海底に至る間にある凹地に地名を付して、海盆とよぶこともある。日本列島付近の日本海盆や四国海盆、および北西太平洋海盆、北アメリカ海盆、中央インド洋海盆などはその例である。これらの海盆の形成と形態は、大規模の地殻運動によって制約され、陸棚付近の堆積盆地は、堆積層の荷重による影響を受けて形成されるものと考えられている。日本海やフィリピン海などのような、島弧と大陸の間の縁海付近には大小さまざまの海盆がある。それらの形成年代は、前記の諸大海盆のそれよりもはるかに新しいことが推定されている。縁海付近の海盆の規模は、深海の大海盆のそれに劣る。しかし島弧上にある盆地よりは大きい傾向がある。
[有井琢磨]
陸上にある盆地は、形成されたおもな営力(作用)によって、〔1〕侵食により形成されたもの、〔2〕地殻運動により形成されたものとに分類できる。
〔1〕侵食によるもの 侵食盆地には、(1)湿潤気候環境下の侵食作用で形成されたもの、(2)乾燥気候環境下の風食作用で形成されたもの、(3)石灰岩地域のカルスト作用(水による石灰岩の溶解作用)で形成されたものなどが含まれる。(1)の型のものとして、ドーム状構造または褶曲(しゅうきょく)背斜部における侵食作用で形成された盆地、および褶曲向斜部に残留した盆地などがある。これらの地形はアパラチア山脈、ロッキー山脈、アルプス山脈などに発達している。(2)の型のものとしては、アメリカ南西部やメキシコ西部の内陸にあるボルソンbolsonとよばれる凹地(乾燥盆地)がある。この盆地に流れ込む河川は、末無(すえなし)川となっている場合が多い。この盆地の周縁部は、ペディメントpedimentとよばれる岩石侵食面からなり、中心部付近にはプラヤplayaとよばれる平坦(へいたん)な凹地があるが、ソルト・パンsalt panとよばれる塩分の多い平坦地のこともある。モンゴルのゴビ砂漠(岩石砂漠分布地)には、風食で形成されたパン・キャンang Kiangとよばれる深さ100メートル、直径10キロメートルに及ぶ盆地の存在が知られている。乾燥気候区には、普通深さ1メートル程度、広さ数平方キロメートルに及ぶ凹地があり、これはデフレーション・ホローdeflation hollowとよばれている。この地形の大規模なものは、南アフリカでパンとよばれ、凹地の広さが数百平方メートルから300平方キロメートル、深さ7~10メートルに及ぶものもある。この凹地も侵食盆地の一種といえよう。(3)の型としては、ポリエpoljeとよばれるカルスト凹地がある。この地形は、石灰岩が広く分布している旧ユーゴスラビアのスロベニアが模式地とされている。ポリエは石灰岩地域の人間の居住地として重要な場合が多い。
〔2〕地殻運動によるもの これに属する盆地はテクトニック盆地とよばれ、(1)断層盆地、(2)褶曲の向斜部にある盆地、(3)曲降運動で形成された盆地(曲降盆地)などがある。(1)の断層盆地には地溝盆地と傾動盆地(断層角盆地)とがある。地溝盆地は、盆地の両側またはその周囲が断層変位で、相対的に高まって生じた凹地である。日本の中部地方の山間にある諸盆地は地溝性の盆地である。傾動盆地は、その一方側が断層崖(がい)で限られた凹地である。濃尾(のうび)平野や京都府の亀岡(かめおか)盆地、長野県の善光寺平(長野盆地)などはその例である。広域的傾動盆地と地溝盆地群は、アメリカ合衆国西部のベースンアンドレインジ地形区(ネバダ州の大部分、ニュー・メキシコ、アリゾナ、カリフォルニア、オレゴン、アイダホ、ユタ諸州にまたがる)に発達している。これらの盆地群は、南北走向をもつものが多い。オーストリアアルプスを構成しているボヘミア山地、カルク高アルプス山脈、低タウエルン山脈の間には傾動盆地が発達している。(2)の褶曲構造の向斜部にある盆地の実例として、パリ盆地をあげることができる。この盆地の東方には、中生界の地層からなって西側に背面を向けるナンシー、ベルダンなどおおよそ四つのケスタcuesta地形があり、それらの最西端の斜層上にパリ盆地がある。オアーズ川、マルヌ川、セーヌ川、ロアール川などはパリ盆地側に向かって求心的に流れ下り、これらの川筋に沿う道路とともに、古来重要な交通・運輸の動脈として知られている。(3)の曲降盆地の大規模な実例としては、アフリカのコンゴ、チャド、カラハリなどの諸盆地がある。また、日本の関東平野を含む関東構造盆地(関東テクトニック盆地)の範囲は、房総(ぼうそう)丘陵、三浦半島北部周縁部、関東山地東縁、足尾山地南縁、八溝(やみぞ)山地南縁部などを含んでいる。この盆地は、埼玉県加須(かぞ)市、茨城県南西部付近を中心とした造盆地運動(ネオ・テクトニック運動)で形成された凹地状地形である。この盆地の周縁には、古い段丘面である多摩面相当の地形面が分布し、盆地の中心部に向かって順次、新期の武蔵野(むさしの)面、立川(たちかわ)面相当の段丘面が分布していることが明らかにされている。
[有井琢磨]
周囲の大部分を山地に囲まれた土地で,地盤が周辺に対し相対的に沈降した結果形成される平地である。周囲の山地から流下する河川は,山麓(盆地縁辺)に扇状地を形成し盆地内で合流する。ときには,盆地中央部に湖沼が形成される(湖盆lake basin)が,日本などの湿潤地域では,周囲の山地中の最低所から排水され,外洋への出口をもっている。しかし,大陸内部の乾燥地帯では,水分の蒸発が激しいため,中央部に塩湖を有する外洋への出口をもたない内陸盆地が数多くみられる。なお,地質学では,現在地表が盆地地形を呈していない場合でも,周辺より中央の一点または一地域に向かって地層が傾いている構造を盆地構造と呼んでいる。盆地は成因によって三大別される。
(1)曲降盆地down (warped )basin 山間盆地とほぼ同義で,地盤が下方に湾曲し下降する(曲降)ことによってつくられた盆地である。この種の盆地の形は,曲降の起こる以前の地形(原地形)と曲降の形式とに支配される。平坦な地形(種々の平野や準平原)が曲降して盆地が形成されれば,円形ないし楕円形の単純な形の盆地となり,開析の進んだ起伏に富んだ山地が曲降すると形の不規則な盆地がつくられる。この場合,盆地縁の山麓線は不規則で,山地を刻む谷は埋積され,盆地床上に開析山地の頂上部が島状に点在する。
(2)断層盆地fault basin 断層を伴う地殻変動によって形成された盆地で,盆地縁の少なくとも一方が断層によって限られる。断層盆地は,断層線の方向に長く延びるものが多く,斜交する断層系が交わって長方形や四辺形を呈することもある。日本の山間には多くの断層盆地が発達し,日本の地形特性の一つとなり,山地内での貴重な人間生活の舞台を与えている。一方が断層崖で直線状の山麓で,他方が屈曲の多い山麓線を示す盆地が,断層角盆地fault angle basinまたは傾動地塊盆地tilted block basinである。2本の並行する断層崖に限られ直線的な山麓線をもつ細長い盆地が,地溝盆地fault troughで,リフトバレーrift valley(裂谷)とも呼ばれる。
(3)浸食盆地Ausräumungsbecken(ドイツ語) 浸食されやすい岩石が差別浸食の結果,浸食されて生じた盆地である。朝鮮半島西部にみられる盆地群は,古生層中に堆積した第三紀層の部分が後に浸食されて盆地状を呈するにいたったものである。
日本では,島弧に並行する盆地群--北海道中央部(名寄・上川・富良野盆地),東北北方の中央盆地列(花輪・大館・鷹巣・横手・新庄・山形・米沢・会津盆地),本州中央部(長野・上田・松本・甲府盆地)や,近畿の盆地群(京都・奈良盆地,琵琶湖盆,上野盆地)などは,いずれも断層角盆地または傾動地塊盆地である。なお,東北地方の中央盆地群は巨視的には,長波長の褶曲構造の曲降部に生じた山間盆地であるが,盆地縁の一方が断層によって変位しているので断層盆地である。アメリカのグレート・ベースンにみられる地形は断層角盆地と傾動地塊の典型例である。
中央構造線やフォッサマグナなどの重要な構造線に沿っては,諏訪湖,伊那盆地などの地溝盆地が発達する。世界には大規模な地溝が多く分布し,アジア内陸部のバイカル湖盆,アフリカ大地溝帯などはとくに有名である。
大陸内部の乾燥地帯では,内陸盆地は海への出口をもたないが,背後の山地から流入する河川は山麓部をうるおし,地下水となって,ときには盆地内で泉となってオアシスをうるおす。中国からヨーロッパへの隊商路であったシルクロードは,内陸盆地縁に分布するオアシスを結んだ道路であった。また,近代技術の進歩は,盆地の地下深く眠っていた地下水の開発を促し,今日では砂漠の中に人工のオアシスがつくられつつある。オーストラリアの大鑽井盆地では掘抜井戸によって得た水を利用して羊の放牧が行われている。
執筆者:小池 一之
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