関節腔に存在する組織液の一種であるが,そのおもな役目は,潤滑,すなわち関節の運動が低摩擦で行われるための潤滑剤としての役目と,関節軟骨の栄養の維持の二つである。関節軟骨には血管がなく血液の供給が得られないので,関節液が代りに栄養を供給している。正常関節では関節液の量はきわめて少なく,ひざのような大きな関節でも数cc以下にすぎず,その採取は困難である。正常関節液は,透明で淡黄色を呈し,きわめて粘稠(ねんちゆう)性に富んでいる。この高い粘稠性はヒアルロン酸という酸性ムコ多糖体が存在するためで,この物質は滑膜内被細胞から分泌される。他の成分のうち,低分子物質(ブドウ糖,尿素,尿酸,電解質など)は,血清におけると同じ種類のものがほぼ同じ濃度で存在する。高分子物質であるタンパク質の濃度は,血清に比べて低く,2g/dl以下である。また,分子量の大きなグロブリンは少なく,分子量の小さなアルブミンが約70%を占める。フィブリノーゲンや凝固因子は存在しないため凝固現象は起こらない。細胞の数は少なく,1mm3当り200個以下で,その大部分は単核細胞であり,多核白血球は25%以下である。赤血球は存在しない。
関節炎などの病的状態になると,まず液の量が増えて穿刺(せんし)採取が容易となる。透明さが失われ混濁するが,その度合は細胞数が多くなるにつれて著しくなる。細胞の種類は,単核細胞よりも多核白血球のほうが多くなる。炎症の強さに応じて粘稠度が低下するが,これはヒアルロン酸の量が減少することと,ヒアルロン酸が分解を受けて低重合化することが関係している。タンパク質の量は増加し,またグロブリンの占める率も高くなる。フィブリノーゲンが出現するために凝固現象が起こるようになる。炎症の程度に応じてリソソーム酵素や他のタンパク質分解酵素の増量がみられ,ブドウ糖の濃度は白血球などにより消費されるため血清に比して低値を示す。病的関節液の検査は種々の関節疾患の診断に大いに役立つ。
執筆者:工藤 洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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