阿国御前化粧鏡(読み)おくにごぜんけしょうのすがたみ

改訂新版 世界大百科事典 「阿国御前化粧鏡」の意味・わかりやすい解説

阿国御前化粧鏡 (おくにごぜんけしょうのすがたみ)

歌舞伎狂言。7幕14場。通称《お国御前》《湯上りの累(かさね)》。別名題《かさね菊絹川染》《音菊家怪談(かねてきくおいえのばけもの)》《室町殿所好(このみの)番組》《累扇月姿鏡(かさねおうぎつきのすがたみ)》《菊累音家鏡(きくがさねゆずりのすがたみ)》。4世鶴屋南北作。1809年(文化6)6月江戸森田座初演。配役は,天竺徳兵衛実は赤松次郎政則・岩倉夜叉丸・土佐又平後に木津川与右衛門・累井筒の累を尾上栄三郎(後の3世菊五郎),狩野四郎次郎元信・村越良助を花井才三郎,那迦犀那尊者実は竹杖外道・後室お国御前・渡し守浮世又平を尾上松助。題材は,一番目が,天竺徳兵衛と佐々木家のお家騒動のうち,お国御前と狩野四郎次郎の愛欲のかけひきを中心に,不破名古屋の世界を仕組み,牡丹灯籠の趣向をこらし,二番目は,累・与右衛門を中心に,小さん・金五郎の世界をもちこみ,佐々木家にちなんで土佐又平や元信の妹である芸者小さんを登場させている。あらすじは,佐々木家の家老小栗宗丹が家横領をたくらみ,後室お国御前が系図を隠すのを狩野四郎次郎元信が色仕掛けで取り返す。伊吹山で,天竺徳兵衛は竹杖外道より,赤松満祐の一子大日丸であることを知らされ,蟇の妖術をさずかる。元信と銀杏の前の祝言を聞き,世継瀬平の家で,お国御前は憤死する。元信・銀杏の前が行きくれて,大和元興寺に宿ると,主の女はお国御前の亡霊で,土佐又平の名鏡の威徳により,亡霊は骸骨となり,奪われた系図は牡丹灯籠から現れる。不破伴左衛門となった天竺徳兵衛は,名古屋山三の館にて,妖術が破れて自殺する。二番目は,木津川与右衛門と改名した土佐又平は,佐々木家の重宝鯉魚の一軸を得るため,芸者の累に金の才覚を頼む。島の内の累井筒で,村越良助がもってきたお国御前のどくろが,湯上りの累にとりつき,醜女となり,嫉妬に狂って元信の妹の芸者小さんを追いまわす。木津川の堤で,与右衛門は累を殺す。大切で,一軸から抜け出した鯉魚を追って与右衛門が鯉つかみを演ずる。お国御前が憤死する場面の〈髪梳き〉は《東海道四谷怪談》に受け継がれ,明治期まで改作され上演されてきた。
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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「阿国御前化粧鏡」の解説

阿国御前化粧鏡
おくにごぜん けしょうのすがたみ

歌舞伎・浄瑠璃外題
作者
勝俵蔵(1代) ほか
初演
文化6.6(江戸・森田座)

出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の阿国御前化粧鏡の言及

【鶴屋南北】より

…むしろ一貫して迫真的な市井風俗や下層民衆生活を描写する〈生世話(きぜわ)〉の追求,また当時の観客の嗜好でもあった残虐な殺し場やきわどい濡れ場の描出に力点をおき,劇的展開と,仕掛物や亡霊などによる怪奇趣味,あるいは奇抜な趣向によって異質なもの同士を結合させ,世界の複合性を構築してゆくドラマツルギーなどが大きな特徴であったといえよう。 前期の代表作としては,公卿が辻君となって春をひさぐ趣向が評判となった《四天王楓江戸粧(してんのうもみじのえどぐま)》(1804年11月河原崎座),小幡(こばた)小平次の怪談に皿屋敷と天竺徳兵衛の世界を綯交(ないま)ぜにし,松助が小平次,鉄山,おとわなどの役々を演じた《彩入御伽艸(いろえいりおとぎぞうし)》(1808年閏6月市村座),幸四郎が演じた〈馬盥(ばだらい)の光秀〉の《時桔梗出世請状(ときもききようしゆつせのうけじよう)》(1808年7月市村座),すでに好評を博した天竺徳兵衛を土台に阿国御前(松助)の怪談,累・与右衛門の早替り(栄三郎を3世菊五郎)を見せた《阿国御前化粧鏡(けしようのすがたみ)》(1809年6月森田座),本町糸屋の娘お房とお時(二役,半四郎)と本庄綱五郎(三津五郎),半時九郎兵衛(幸四郎),お祭左七(松助)らの活躍する《心謎解色糸(こころのなぞとけたいろいと)》(1810年1月市村座),白藤源太の書替えの世話狂言で釣鐘権助(幸四郎)が源太(三津五郎)に殺される《勝相撲浮名花触(かちずもううきなのはなぶれ)》(1810年3月市村座),善玉悪玉双方で18人ないし21人の登場人物が惨殺される返り討狂言で,幸四郎が左枝大学之助と立場の太平次という時代と世話の敵役を演じわけた《絵本合法衢(がつぽうがつじ)》(1810年5月市村座),風鈴蕎麦屋が娘を殺す双蝶々の書替狂言《当龝八幡祭(できあきやわたまつり)》(1810年8月市村座),また夏祭の書替えで,のちの四谷怪談の原型ともなった《謎帯一寸徳兵衛(なぞのおびちよつととくべえ)》(1811年7月市村座)などがある。この年7月に出された法令(狂言中府内地名の使用禁止,衣裳小道具法度,糊紅の使用禁止など)に抵触するところあってか,《謎帯》は興行を中絶した。…

【天竺徳兵衛韓噺】より

…原作は,近松半二作の院本《天竺徳兵衛郷鏡(さとのすがたみ)》。初演の際の脚色はほぼ原作どおりであったが,再演のつど改訂され,特に4度目の上演である09年に《阿国御前化粧鏡(おくにごぜんけしようのすがたみ)》と改題増補された際,初演の脚色者でもある南北が,3世菊五郎の天性の美貌を生かし,舞台で化粧をさせる《湯上りの累(かさね)》の趣向を入れた。これが好劇家の印象に残り,後世になって南北の出世作として位置づけられることになる。…

※「阿国御前化粧鏡」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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