銀杏(読み)イチョウ

デジタル大辞泉 「銀杏」の意味・読み・例文・類語

いちょう〔イチヤウ〕【銀杏/公樹/鴨樹】

イチョウ科の裸子植物。一科一種。落葉高木で、高さ約30メートルに達する。葉は扇形で中央に裂け目があり、秋に黄葉する。雌雄異株。春、葉の付け根に、尾のような雄花、柄のある2個の胚珠はいしゅをもつ雌花をつけ、4月ごろ受粉し、9月ごろ精子によって受精が行われる。果実は丸く、外種皮は熟すと黄橙おうとう色で、内種皮は白い殻となって種子を包む。種子は銀杏ぎんなんとよばれ、食用。幹や枝から気根を垂らすことがあり、ちちの木ともいう。中国の原産で、盆栽街路樹に多用され、材は碁盤・将棋盤などに使われる。 黄葉=秋 花=春》「―散る遠くに風の音すれば/風生
やじりの一種。イチョウの葉の形をしたもの。
銀杏頭いちょうがしら」の略。
紋所の名。イチョウの葉を図案化したもので、多くの種類がある。
[補説]江戸時代以来、語源を「一葉」と考え、歴史的仮名遣いを「いてふ」としてきたが、「鴨脚」の宋音ヤーチャオに由来するもので、「いちゃう」が正しいとする。

ぎん‐なん〔‐アン〕【銀×杏】

《「ぎんあん」の連声れんじょう。「あん(杏)」は唐音
イチョウの別名。
イチョウの実。黄色で悪臭のある外種皮を土に埋めておくなどして取り去り、内部の核のじんを食用とする。 秋》「―が落ちたる後の風の音/汀女

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精選版 日本国語大辞典 「銀杏」の意味・読み・例文・類語

いちょうイチャウ【銀杏・公孫樹】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「鴨脚」の唐宋音の変化した語 )
  2. イチョウ科の落葉高木。真の自生と確証される生育地は発見されていないが、中国原産と推定され、日本には古く渡来し、各地で街路樹、防火樹、庭木とする。高さ三〇メートル、直径二メートルに達し、古木にはしばしば乳といわれる大きな気根が垂れる。葉は長い柄をもち扇形で、先端は波状、しばしば中央でさまざまな深さに裂け、秋、黄葉する。雌雄異株で、花は春新葉と共に咲く。雄花は淡黄色で短い尾状の穂となり、雌花は緑色で直径三ミリメートルほどの裸の胚珠を二個もつ。花粉は胚珠内で夏を越し、九月頃花粉管を伸ばし、その中にできた精虫が泳ぎ出て受精する。種子は外種皮が肉質で黄褐色となり悪臭がある。内種皮は白色で堅く二~三稜があり、中身を食用とする。材は淡黄色で建築、器具、彫刻材などとする。ぎんなんのき。ちちのき。

▼いちょうの花《 季語・春 》

▼いちょうの実《 季語・秋 》

  1. [初出の実例]「あづさ弓いちゃうの本のうすくこき落葉をかぜにひろはせぞやる」(出典:宗長日記(1530‐31))
  2. 「岡のべの銀杏のもみぢ朝晴に色いちじろく空しぬぐ見ゆ」(出典:左千夫歌集(1920)〈伊藤左千夫〉明治三五年)
  3. 形がの葉に似た矢の根。
  4. 大根などを薄く輪切りにし、それを四分の一に切ること。また、その切ったもの。いちょうぎり。〔古今料理集(1670‐74頃)〕
  5. いちょうがしら(銀杏頭)」「いちょうまげ(銀杏髷)」の略。
    1. [初出の実例]「かみはいてふかたてかけか」(出典:浄瑠璃・曾我五人兄弟(1699頃)道行)
  6. 紋所の名。の葉を図案化したもの。
    1. 三つ銀杏@対い銀杏菱@中輪に立銀杏@違い銀杏
      三つ銀杏@対い銀杏菱@中輪に立銀杏@違い銀杏
  7. 江戸中村座のこと。隅切り角に銀杏鶴の櫓紋であったところからいう。
    1. [初出の実例]「橘といてうで二丁おっふさぎ」(出典:雑俳・柳多留‐五三(1811))

銀杏の補助注記

歴史的かなづかいは江戸時代以来「いてふ」と書かれたが、近年、語源の研究から「いちゃう」が正しいとされる。


ぎん‐なん【銀杏】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「ぎんあん(銀杏)」の連声 )
  2. 植物「いちょう(銀杏)」の異名

▼ぎんなんの花《 季語・春 》

  1. [初出の実例]「謝少室和尚恵銀杏栽於南陽方丈西園」(出典空華集(1359‐68頃)三)
  2. 「銀杏(ギンナン)の花や鎌倉右大臣」(出典:鳴雪俳句集(1926)〈内藤鳴雪〉春)
  3. イチョウの種子。悪臭のある肉質の外皮を除去して保存し、白い木質の殻を割って中の胚乳と胚を食べる。《 季語・秋 》
    1. [初出の実例]「菓子五種 こぶ、いりもち、きんなん、打くり、れゐし」(出典:松屋会記‐久政茶会記・永祿二年(1559)四月二一日)

ぎん‐あん【銀杏】

  1. 〘 名詞 〙ぎんなん(銀杏)
    1. [初出の実例]「柘榴桃杏梅李梨鉛桃(くるみ)銀杏柏実」(出典:異制庭訓往来(14C中))
    2. 「銀杏 ギンアン」(出典:天正本節用集(1590))

ぎん‐きょう‥キャウ【銀杏】

  1. 〘 名詞 〙ぎんなん(銀杏)
    1. [初出の実例]「銀杏 イチャウ ギンキャウ」(出典:元和本下学集(1617))

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改訂新版 世界大百科事典 「銀杏」の意味・わかりやすい解説

銀杏 (ぎんなん)

〈ぎんあん〉の転訛した語で,近世にはイチョウそのものをもいったが,今はイチョウの種子を指す。食用部位は,白く堅い内種皮の中にある黄緑色の胚乳で,おもな成分は糖質34.5%,タンパク質4.7%,脂質1.7%など,ほかにカロチン,ビタミンCを比較的多く含んでいる。内種皮のままいったり,割ってから加熱して食べる。酒のさかな,茶わん蒸し,ほうろく焼き,なべ物のあしらいなどに用い,独特の風味と歯ざわりが喜ばれる。
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百科事典マイペディア 「銀杏」の意味・わかりやすい解説

銀杏【ぎんなん】

イチョウの種子をいう。悪臭のある肉質黄褐色の外種皮におおわれ,内種皮は堅く白色でこの内部の胚乳を食用とする。特有の風味があり,内種皮のままいったり,割って渋皮を除いて加熱して食し,酒のさかな,茶碗蒸し,寄鍋のあしらい,銀杏飯などにする。外種皮はビロボールやイチョウ酸を含み,しばしばかぶれをおこす。

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普及版 字通 「銀杏」の読み・字形・画数・意味

【銀杏】ぎんきよう(きやう)・ぎんなん

いちょう。公孫樹。玉果。〔本草綱目、果二、銀杏、釋名〕白果、鴨脚子。(李)時珍曰く、~宋初始めて入貢し、改めて銀杏と呼ぶ。

字通「銀」の項目を見る

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動植物名よみかた辞典 普及版 「銀杏」の解説

銀杏 (イチョウ・ギンキョウ;ギンナン)

学名:Ginkgo biloba
植物。イチョウ科の落葉大高木,園芸植物,薬用植物

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世界大百科事典(旧版)内の銀杏の言及

【イチョウ】より

…これはビロボールbilobolやイチョウ酸ginkgolic acidを含むためで,皮膚の傷口から入るとかぶれをおこす。種子を土中に埋め,外層を腐らせ,堅い種皮中層が露出したものがぎんなん(イラスト)で,多量のデンプン,少量のタンパク質と油脂を含有し,酒のつまみや茶わん蒸しの具に好適である。また漢方では白果(はくか)と呼ばれ,薬用とされる。…

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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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