三遊亭円朝(えんちょう)作の人情噺(ばなし)。怪談噺の代表作で、正称は『怪談牡丹灯籠』。1861年(文久1)から64年(元治1)、円朝23歳から26歳ごろの作。84年(明治17)速記本刊行。
旗本飯島(いいじま)平左衛門は若いころに酒乱の浪人黒川孝蔵を斬(き)り、のち偶然にもその子孝助を召し抱えた。平左衛門の妻はお露を産んで死に、女中お国が妾(めかけ)となったが、お国は隣家の宮城野源次郎と密通し、2人は平左衛門暗殺を謀る。それを知った孝助は源次郎と間違えて平左衛門を討ってしまう。平左衛門が覚悟のうえで討たれたことを孝助は知り、その仇討(あだうち)に2人を追って旅立つ。一方、娘のお露は浪人萩原(はぎわら)新三郎に恋い焦がれて死に、お盆から毎夜その幽霊が女中お米に手を引かれ牡丹灯籠を提げて新三郎のもとに通う。自分が幽霊と逢瀬(おうせ)を重ねていることを出入りの伴蔵(ともぞう)に知らされた新三郎は、谷中(やなか)新幡随院(ばんずいいん)の両女の墓に参り、良石和尚(おしょう)の加持とお札(ふだ)を受けるが、幽霊から百両の金をもらった伴蔵がお札をはがしたため、新三郎は幽霊に命を奪われてしまう。逐電した伴蔵夫婦は栗橋(くりはし)宿で荒物屋を営むが、伴蔵が酌婦となったお国に近づき、嫉妬(しっと)した女房おみねは錯乱して伴蔵に惨殺され、伴蔵も江戸で捕らえられる。旅先で孝助は再婚した生母と対面、婚家の先妻の娘がお国と判明するが、母は婚家への義理で、お国と源次郎を孝助の追っ手から逃がして自害する。孝助は2人を追ってめでたく本懐を遂げ、1子孝太郎をもって飯島家を再興する。
この作は、円朝が、中国の怪奇小説『剪燈新(せんとうしん)話』を翻案した近世初期の説教僧浅井了意(りょうい)の『御伽婢子(おとぎぼうこ)』巻三「牡丹灯籠」から取材し、深川北川町の玄米問屋近江(おうみ)屋喜左衛門家に伝わる怪談や牛込(うしごめ)軽子坂の旗本田中家で聞いた実話などをもとにして創作された。幽霊接近に「カランコロン」の下駄(げた)の音を用いて有名になったが、構成が優れ、描写力は卓抜で、多くの人々の感動をよんだ。1892年(明治25)には3世河竹新七の脚色で歌舞伎(かぶき)化され、『怪異談牡丹灯籠』として5世尾上(おのえ)菊五郎らが初演、以後もしばしば上演されている。岡本綺堂(きどう)の戯曲にも『牡丹灯記』(1927初演)がある。
[関山和夫]
『『三遊亭円朝全集1』(1975・角川書店)』
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出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
…怪異を語り,または記録したものを,古くは〈志怪〉とよび,宋代では〈霊怪〉とよんで講談の題材にもなっていた。近世では《剪灯新話》《聊斎志異》《子不語》などは,これらの怪異談を多く載せた記録または小説作品で,《剪灯新話》の《牡丹灯記》が日本の怪談《牡丹灯籠》の原話となったような例もある。【沢田 瑞穂】
[日本の怪談文学]
日本の場合は,固有信仰と仏教の葛藤のうえに,早くから怨霊の思想が発達していたが,平安朝以降になると,それは一方では〈鬼〉の思想となって《今昔物語集》《宇治拾遺物語》《古今著聞集》の説話のある部分を占め,他方では,陰陽道にむすびつき〈物の怪(もののけ)〉の思想となって,《源氏物語》《栄華物語》などの,凄惨な生霊・死霊の描写などに現れた。…
…通称《牡丹灯籠》。(1)人情噺の作品。…
…清初の《聊斎志異(りようさいしい)》もこの系統に属する。日本では江戸時代の《御伽婢子(おとぎぼうこ)》以下この書に取材した作品が多く,特に《牡丹灯記》を改作した三遊亭円朝の《牡丹灯籠》は有名。【村松 暎】。…
…オデュッセウスらを魅した海の魔女セイレンたちの座るあたりには人骨がうずたかく積もっていた(ホメロス《オデュッセイア》)。浅井了意の《伽婢子(おとぎぼうこ)》には《剪灯新話》の〈牡丹灯記〉から得た,萩原新之丞が白骨とむつみ合う〈牡丹灯籠〉の話や,長間佐太(ながまのさた)が白骨に抱きつかれた話(原話は《暌車志(けいしやし)》にある)などがある。 有史以前の人類が人や動物の頭蓋骨や長骨を生活用品や武器として用いていたことは遺物からも明らかである。…
※「牡丹灯籠」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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