陰囊(読み)いんのう(英語表記)scrotum
Hodensack[ドイツ]

改訂新版 世界大百科事典 「陰囊」の意味・わかりやすい解説

陰囊 (いんのう)
scrotum
Hodensack[ドイツ]

哺乳類特有の器官で,単孔目,食虫目,貧歯目,有鱗目などの原始的な類にはなく,長鼻目,海生の海牛目,鯨目にもない。また系統とは無関係に,各分類群ごとに進化したものに陰囊が生ずる傾向が見られる。たとえば奇蹄目ではバク科,サイ科になく,ウマ科だけにあり,偶蹄目では原始的なイノシシ科,カバ科にはなく,進化度の高いシカ科,キリン科,ウシ科で発達している。翼手目,皮翼目,多くの齧歯(げつし)目では,陰囊は繁殖期にだけ形成され,他の時期には消失する。しかし多くの有袋目,ツパイ目,多くの偶蹄目,ウマ科,多くの食肉目と霊長目では繁殖期とは無関係に存在する。有袋目の陰囊は基部が細くくびれていて陰茎より前にあるが,他のものではくびれが明らかでなく,陰茎より後ろに位置する。陰囊の有無は体温高低と関連があるともいわれるが,その根拠は薄弱なように見うけられる。
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男性生殖器の一部。陰茎の後ろ,恥骨部の正中部にたれる囊で,腹壁の続きである。陰囊中隔により左右に分けられ,中に睾丸精巣)と副睾丸精巣上体)を入れる。発生学的には女性の大陰唇に当たり,表面は皮膚におおわれる。汗腺が豊富で,基底層メラニン色素が多い。真皮は薄く,その下の皮下細胞に当たる部分は肉様膜tunica dartosとよばれ,叢状に密に分布する平滑筋層からなる。その収縮によって陰囊の皮膚がちぢむ。寒いときに著しい。睾丸の温度調節に役立っていると考えられる。すなわち,睾丸での精子形成には体温より低い温度環境が必要であり,そのため睾丸は腹腔から陰囊へ下降する。また陰囊の皮膚にしわの多いことは皮膚の表面積を広げており,暑いときに放熱を盛んにするのに役立つ。寒いときの収縮は放熱を小さくする。ちなみに睾丸を腹腔内に戻すと精子形成が起こらない。
性器
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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