翻訳|penis
ペニスともいう。陸生動物の体内受精に適応して発達した雄の交尾器で,無脊椎動物ではミミズ,カタツムリ,昆虫などのほか,扁形動物,線形動物円虫類などの内部寄生虫にも見られる。脊椎動物ではムカシトカゲ以外の爬虫類,ダチョウ,ガン,カモなどの鳥類,およびすべての哺乳類にある。これらの陰茎のうち哺乳類と相同(同一起源)と思われるものは,鳥類とカメ,ワニなどのものだけで,他は相似器官である。
トカゲ,ヘビのものは半陰茎hemipenisと呼ばれる袋状のもので,総排出腔の後端背側に1対あり,収縮時には尾の腹側基部にあるポケットに裏返しに収められている。表面にはとげ状の鋭い突起を多数そなえることが多く,マムシ,ガラガラヘビなどではそれぞれの先半部がさらに二分している。精液は半陰茎の表面を縦走する1本の溝に沿って流れる。
カモノハシ(単孔類)の陰茎は,排出腔の腹壁の一部が海綿体と繊維体に変わったもので,後ろに向かい,尿生殖洞から分かれた1支管がそれを貫通していて精液を通す。しかし尿は通らない。また陰茎は坐骨に付着していない。カメ,ワニ,鳥類の陰茎はこれに構造がよく似ている。
有袋類の陰茎も単孔類同様後方に向かっていて先端部が二分し,きわめて浅い排出腔から突出する。陰茎は基部が坐骨につき,精液のほか尿も通し,陰茎と肛門の間には会陰に相当する隔壁がある。陰囊は陰茎の前方に位置する。
残りの哺乳類(真獣類)の陰茎は,有袋類に懸垂性のもの,亀頭にトビネズミのように長いとげをそなえたもの,ブタのようにらせん形を呈するものなどがある。また亀頭の中には,翼手類,齧歯(げつし)類,ヒト以外の霊長類,イヌ科,クマ科,イタチ科などの食肉類,鰭脚(ききやく)類などでは陰茎骨penis bone(baculum)がある。クマ,イヌ,イタチなどの陰茎骨は棒状で下面に尿道を収める溝があるが,リス,ムササビなどではらせん形,ハタネズミ類では主幹の先に3個の指状の小骨が付着していて熊手状を呈する。陰茎骨は長さ数cm~20cmのほとんどまっすぐな棒状で下面に尿道を収める溝がある。アライグマのもの(約10cm)もこれに似るが先1/4が垂直に下方に曲がっている。陰茎と陰茎骨の形態は近似種の間でも顕著に異なることがあり,分類上重要である。たとえば日本のアブラコウモリは陰茎骨が異常に長く,長さ11~12mmもあるが,ヨーロッパのアブラコウモリ類ではすべて5mm以下である。さらに日本本土のホンドモモンガでは長さ2mm前後の巻貝状であるのに,本種と区別が困難で近年まで同種と誤認されていた北海道,シベリアのタイリクモモンガでは,5mm前後の長い主軸の基部に短い枝をそなえた十手形で,まったく形態を異にする。
執筆者:今泉 吉典
男性生殖器の一部。精液の射出路であるとともに尿の排出路である。発生前期には女性の陰核に相当する。陰茎根,陰茎体および亀頭からなり,表面は皮膚に包まれる。陰茎を包む皮膚は下層とゆるく結合しているので移動性に富み,その前方部は包皮となる。亀頭は前端部の亀の頭に似た部分で,包茎の人では包皮がその上を覆っている。包皮の内面と亀頭の後端部では皮脂腺がよく発達していて包皮腺とよばれる。陰茎体の皮下組織は脂肪を欠き,代りに,陰囊の肉様膜のつづきであるまばらな平滑筋繊維の層が存する。その下層に陰茎筋膜とよばれる薄い結合組織性の繊維層がある。
陰茎内部の主要な部分は陰茎海綿体と尿道海綿体である。前者は後者よりもはるかに大きく,背側に,後者はその腹側に位置する。陰茎海綿体は白膜とよばれる厚い結合組織性の被膜に包まれ,左右にまたがる大きい部分を占めるが,その間に中隔が存し,海綿体を不完全に左右に分けている。海綿体は網状の小柱と,その空隙である海綿体洞からなり,海綿様である。海綿体洞は不規則な形の静脈腔で血液を含むが,これが充満すれば陰茎の勃起となる。海綿体小柱は疎性結合組織と平滑筋の小束からなり,表面を内皮が覆う。いいかえれば洞の内壁は内皮に覆われているわけである。尿道海綿体も白膜に包まれ内部構造は陰茎海綿体に同じであるが,ただ小柱が繊細である。尿道海綿体の中央を尿道が走っている。尿道海綿体は亀頭の内部にまでのびており,尿道はその中を通って外に開く。陰茎のおもな血管は内陰部動脈の枝である陰茎背動脈と陰茎深動脈であり,これらの小枝は海綿体の小柱の中を走り直接海綿体洞に注ぐ。
→性器
執筆者:藤田 尚男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
体内受精を行う動物で雌の体内へ精子を送り込む雄性交尾器官をいう。無脊椎(むせきつい)動物には普遍的ではないが、かなり多くの種類にみられ、ことに陸生動物、寄生動物にこれを有するものが多い。脊椎動物では哺乳(ほにゅう)類に一般的である。形態は種類によって異なるが、基本的には1対の陰茎海綿体と尿道を取り巻く尿道海綿体、それに続く亀頭(きとう)からなる。なかには尿道が亀頭の本体よりさらに糸状突起として突出している種もある。亀頭の形態も、乳頭状突起のあるもの、角(つの)状の突出のあるものなど変異に富む。亀頭部には感覚受容器が豊富に存在する。陰茎の勃起(ぼっき)の際に重要な役割を果たすのは海綿体で、海綿状の不規則な管腔(かんこう)に大量の血液が流れ込むことによって、海綿腔が血圧で拡張し、充血して勃起がおこる。このようなタイプの陰茎は血管型に属し、ヒトがその代表的な例である。ほかに線維弾性型のものがあり、ウシなどに代表されるタイプである。この場合、静時でも陰茎の長さは比較的長く、固い。これは海綿体を覆う線維膜が緻密(ちみつ)で厚いことによる。勃起に際しての海綿体の役割は血管型ほどではなく、海綿体の膨大とともに陰茎の底部を走る収縮筋の弛緩(しかん)が重要な役割を果たす。なお、鳥類、爬虫(はちゅう)類にも陰茎を有するものがあり、多くは総排出腔壁より生じる突起で、しばしば精液輸送のための溝がある。
[新井康允]
恥骨部に接して前下方にあり、やや扁平(へんぺい)な円柱形で、恥骨に付着する陰茎根部と、それより前方の陰茎体部、先端のとくに膨大する部分(陰茎亀頭部)からなる。日本人の陰茎体部より亀頭部までの長さは平均8センチメートルである。陰茎の内部は背方に2個の陰茎海綿体と下面に存在する1個の尿道海綿体とからなり、いずれも強靭(きょうじん)な白膜によって包まれている。尿道海綿体はその中心部に尿道を含み、先端部は著しく膨大して亀頭内面を形成し、尿道は亀頭尖端(せんたん)部に開口する。すなわち陰茎は男性交接器であると同時に、尿路と精路を兼ねている。また海綿体は、縦横に走る線維よりなるスポンジ様構造をもち、ここに血液が充満した状態が勃起であり、勃起がなければ性交は不可能である。この勃起は自律神経によりコントロールされている。
[白井將文]
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字通「陰」の項目を見る。
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…【島田 義也】
【交尾器官copulatory organ】
[無脊椎動物の交尾器官]
有性生殖をする無脊椎動物には交尾によって交配するものがあり,交尾器官を発達させている。渦虫(かつちゆう)類には,生殖腔の中に貯精囊とつながった筋肉性の陰茎があり,クチクラ質の複雑な付属突起を備えていることもある。陰茎は生殖腔から生殖孔を通して突き出され,相手の生殖腔に挿入されて交尾する。…
… ヒトの性器は性腺(生殖腺)を中心に,これに付属ないし関連する諸器官からなる。すなわち男性では睾丸(精巣)で作られた精子が副睾丸(精巣上体)から精管を経て尿道に運ばれるが,付属腺として精囊や前立腺などがあり,交接器として陰茎がある。女性では卵巣とそこで作られた卵子を運ぶ卵管と,受精卵を育てる子宮,交接器としての腟などがおもな性器である。…
…この〈ざくろ鼻〉ともいう赤鼻は飲酒にも関係するので酒皶と称する。 人相学は鼻頭を〈準(せつ)〉といい,準に異常を見れば男性性器の病があるとしたり,鼻全体の形状から陰茎を推し量ったりする。これは西欧でも同じで,古来,鼻は陰茎のコピーと見なされてきた。…
※「陰茎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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