日本大百科全書(ニッポニカ) 「隠れ蓑笠」の意味・わかりやすい解説
隠れ蓑笠
かくれみのかさ
昔話。異郷から得た不思議な力をもつ道具をめぐる失敗を主題にする笑話の一つ。怠け者の男が、篩(ふるい)を持って望遠鏡のまねをしていると、天狗(てんぐ)がだまされて、篩と隠れ蓑笠とを交換する。男は隠れ蓑笠を着て姿を隠し、酒を飲み歩く。女房が怒って、男の留守に蓑笠を焼いてしまうと、男はその灰を体に塗って、酒を飲み歩く。そのうちに灰がはげ、体が現れてしまう。隠れ蓑・隠れ笠は、身につけると姿を隠すことのできる蓑笠の呼び名で、古くから、打ち出の小槌(こづち)とともに、鬼や天狗などの異形(いぎょう)の人の持つ宝物とされた。平安時代中期にはすでに一般に知られており、『拾遺(しゅうい)和歌集』(1005ころ)には、姿を隠すための隠れ蓑・隠れ笠を詠み込んだ歌がある。『狭衣(さごろも)物語』以前に、隠れ蓑を着た主人公が起こすいろいろな事件を描いた『隠蓑』とよばれた物語もあった。この昔話の類話は朝鮮にもある。トケビ(小鬼)が落としていった魔法の衣を着て姿を隠し、盗みをはたらくが、穴のあいたところを赤布で補修したため、赤布がみつかり、捕らえられるという。中国にも、隠れ蓑笠を化け物から盗み取るが、濫用したために失うという昔話がある。インドの仏教説話には、隠形(おんぎょう)の薬で姿を隠す話があり、『今昔(こんじゃく)物語集』には天竺(てんじく)(インド)の話としてみえている。隠れ蓑(マント)・隠れ笠(帽子)は、人気のある昔話の趣向になっており、インドから西アジア、ヨーロッパ一帯、そして北アメリカのインディアンにまで広がっている。
[小島瓔]