アメリカ大陸を区分するときに用いられる名称。大陸を南北に大きく二分するときは、パナマ地峡を境に北アメリカと南アメリカに分ける。この場合は地形がおもな要素で、逆三角形をした二つの陸塊のもっとも狭まった接点を境としている。これとは別に、この大陸を北アメリカ、中央アメリカ、南アメリカと三分するときは、リオ・グランデ川を境に以北が北アメリカとされる。ここでは後者の北アメリカについて述べる。この場合は人種・文化・経済社会が区分の要素で、アングロ・サクソン系文化が主流をなすため、アングロ・アメリカともよばれる。グリーンランドは北アメリカ陸塊の一部であるが、デンマークに属し、通常ヨーロッパに含まれる。
[伊藤達雄]
北アメリカは面積1934万平方キロメートルで地球の全陸地の約14%にあたり、緯度でおよそ50度、経度で130度にわたる広大な陸地である。アメリカ合衆国とカナダの2国があり、世界人口の5.2%にあたる2億9700万人(1995)が住む。地形は比較的単純で、大陸の東西両側に山地があり、中央に平原が広がる凹地形をなす。東の山地は古期造山帯に属する侵食の進んだアパラチア山脈と、その北の、地上でもっとも古く安定した陸塊であるカナダ楯状地(たてじょうち)の一部、ローレンシア台地である。西にはコルディエラ山系があり、これは火山帯を伴う急峻(きゅうしゅん)な新期の環太平洋造山帯に属する。中央部はハドソン湾からメキシコ湾に至る低地で、南半分はミシシッピ川の流域である。ハドソン湾を巡る低地は、更新世(洪積世)に大陸氷河に覆われた地域で、氷河地形が発達している。五大湖も氷河湖である。太平洋岸では北緯50度あたりを境に、北ではアラスカ海流(暖流)が北上し、南ではカリフォルニア海流(寒流)が南下する。これに対して大西洋岸では、北緯40度あたりを境に、北ではラブラドル海流(寒流)が南下し、南ではガルフストリーム(メキシコ湾流、暖流)が北上して、西岸と東岸では海流の流れが逆になっている。また大陸の西岸では、中緯度地域を中心に太平洋から大陸へ向かって偏西風が吹き込むのに対して、東岸では季節風が卓越する。こうした地形・海流・風向などの影響によって、気候区の配置は大陸の東岸と西岸で非対照となっている。広大な陸地であるため、熱帯系を除くほとんどすべての気候区をみることができ、植生や土壌の分布も多様である。西岸では暖流の影響を受けてアラスカ半島にまで温帯気候が北上しているのに対して、東岸では冷帯が北緯40度あたりまで広がっている。
カリフォルニア州の南部には砂漠気候もみられる。中央低地は概して温帯系であるため肥沃(ひよく)で豊かな農業に利用され、世界の穀倉地帯の一つとなっている。
[伊藤達雄]
アメリカは新大陸とよばれるように、世界史に登場するのは、1492年スペインのイサベル1世の援助を受けたコロンブスが西インド諸島(中央アメリカ)に到達してからである。しかしそれ以前の数百年にわたって北アメリカでは、スカンジナビアのノルマン人(ノースマン)がノバ・スコシア地方に上陸していた形跡がある。北アメリカにおけるヨーロッパ人の歴史上最初の足跡は、コロンブスに遅れること5年、1497年にイギリス国王の命によりカボートが北アメリカ東岸を探検したときとされる。カボートはニューファンドランド島まで到達しており、これがカナダの発見である。以後北アメリカはイギリスとフランスによって探検され、イギリスはニュー・イングランド地方を中心に植民地経営に、フランスはセント・ローレンス川から五大湖さらにミシシッピ川に沿って先住民との交易を中心に、それぞれ急速に勢力を拡大する。
それまで北アメリカは、1万8000年前のビュルム氷河期のころユーラシア大陸から渡ってきたといわれるアメリカ・インディアンとエスキモーの世界で、インディアンの人口はヨーロッパ人のアメリカ大陸到達のころ約100万と推定されている。彼らは狩猟と農業を生業としていたが、白人の侵入によって領域を奪われ、1811年にはミシシッピ川以東のインディアン居住区はすべて消滅、20世紀の初めに開拓が完了したとき、インディアンの数は4分の1に減少していた。かわって新天地を目ざすヨーロッパ各国人、農業奴隷として移入されたアフリカ人、近年に急増したアジア人などの流入によって、人種のるつぼと称されるまでになった。
1776年イギリスから独立したアメリカ合衆国は、イギリス、フランス、スペイン、ロシア、メキシコから領土を次々に併合して、1898年に現在の領土を築いた。イギリスから1867年に自治権を得たカナダ自治領は、1931年に主権国家となり、1949年に国名をカナダと改めた。北アメリカの2国は、合衆国の建国以来でもまだ200余年の若い国家である。しかし、豊かな自然と資源、近代的な諸制度の積極的な導入を背景に急速に発達し、今日では北アメリカは6大陸中でもっとも先進的な文明・文化・技術をもつ大陸となっている。しかも、ヨーロッパやアジアに比べると、国土や資源にまだ余裕があり、将来の人口増に対して人類が北アメリカに寄せる期待には大きいものがあるといえるであろう。
[伊藤達雄]
北アメリカの植物界は、大きく全北区系界と新熱帯区系界に大別される。新熱帯区系界はメキシコおよびテキサス、アリゾナ、ニュー・メキシコを中心とする乾燥した地域で、ソノラ・メキシコ区系区とよばれ、サボテン科の植物を一大特色とする。メキシコの中部、カリブ海の諸島、フロリダ南部などは湿潤な地域であり、別にカリブ区系区として扱われる。全北区系界は北アメリカの大部分を占める。北方のカナダ、アラスカなどと山地の高い地域は、極地・高山区系区で、周北極地域全体に共通する植物が多いが、針葉樹などは独自の種類をもっている。北アメリカ東部区系区は大西洋岸の湿潤な温帯地域で、アパラチア山脈を中心としたナラ類を主とする夏緑林が代表的である。ここには、日本および中国と共通の種属、たとえばユリノキ属、ルイヨウボタン属、ハエドクソウ属などが多く知られている。北アメリカ中部区系区はミシガン湖からロッキー山脈あたりまでの地域で、やや乾燥し、プレーリーが主体となる。北アメリカ西部区系区はカリフォルニアを中心とする太平洋沿岸の地域で、地中海性気候を示し、常緑のナラ林と乾燥草原を主とし、沿岸部にはセコイア、センペルビレンスの森林が発達する。この林は照葉樹を多く含み、日本の照葉林(照葉樹林)帯にやや相当する。カリフォルニアの半乾燥地域はきわめて植物の種類に富み、固有種が多い。常緑のナラ林が山火事などで破壊されたあとに生育するチャパラルとよばれる硬葉樹の低木林が現在の植生景観を支配している。
[大場達之]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…南・北アメリカ大陸のうち,アメリカ合衆国,カナダ,およびグリーンランドを含む地域。世界の総陸地面積の約6分の1を占める。…
※「北アメリカ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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