浄瑠璃の語句に関する最初の評釈書。著者は穂積以貫とも,備前岡山の三木平右衛門ともいう。1738年(元文3)1月刊。5巻。《国性爺合戦(こくせんやかつせん)》《蘆屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)》など9編の浄瑠璃の語釈を記し,必要に応じて文句に対する批評を述べたもの。しかし,本書の価値は発端の部分に収められた近松門左衛門聞書にある。〈芸といふものは実と虚(うそ)との皮膜(ひにく)の間にあるもの也。……虚にして虚にあらず,実にして実にあらず,この間に慰が有たもの也〉という〈虚実皮膜論〉で名高いこの聞書は,魂のない人形に魂を吹き込むには,文句に情をこめることが大切で,個々の人物にふさわしい言葉を用い,人物の実情・底意を表すためのデフォルマシヨンを行い,また,浄瑠璃の眼目である愁いの表現には,説明的な描写を排して,〈芸のりくぎが義理につまりてあはれ〉,つまり,劇の展開に内的な必然性を持たせるべきだと説いている。
執筆者:今尾 哲也
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…そしてそれは〈正根なき木偶(にんぎよう)〉に〈情(じよう)〉をもたせるような文句を発明するということでもあった。これら近松の芸論に類するものは浄瑠璃評釈書《難波土産》(1738)によって知られるが,そこには有名な〈虚実皮膜(ひにく)の論〉なども書きとめられている。 近松は作者となったが,それは武士の家に出て,賤視されていた芝居者の世界に身を投じることによってであった。…
※「難波土産」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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