デフォルマシヨン(その他表記)déformation[フランス]

改訂新版 世界大百科事典 「デフォルマシヨン」の意味・わかりやすい解説

デフォルマシヨン
déformation[フランス]

正常な形を変える,つまり形をゆがめたり,ぶかっこうにさせる意のラテン語deformatoに由来する語で,〈歪形〉〈変形〉と訳すことがある。近代美術において対象を再現する写実主義が否定され,対象がなんらかの程度と方向において変形させられるときに,この語が使われた。視覚に忠実な映像の再現を基準として,かりにそれを〈正常な形〉ということにすれば,人間のつくる形は芸術の起源以来,つねになんらかの変形をうけていることになる。時代,民族流派,個性を区別しうる美術作品の形を,それぞれの様式名で呼ぶが,様式とは〈正常な形〉からのそれぞれ独自な癖をもった変形を示すからこそ,様式相互の区別が可能になるといえる。しかし,たとえば古代ギリシア美術における〈理想美〉への〈正常な形〉からの変形については,デフォルマシヨンの語が用いられなかったのに対して,近代美術についてこの語が用いられたことは,この語の原義に従う否定的な価値判断が含まれていたことが認められる。ところで,19世紀以前に意識的に〈歪形〉を行っている例の一つは,絵画での戯画風刺画である。対象の全体または部分を誇張あるいは省略して,作品の意図を効果的に強調するわけである。他の例は,とりわけ厳密に透視図法を絵画表現に利用するときに,消失点から離れた部分で必ず起こるゆがみである。その極端な場合はアナモルフォーズに見ることができる。しかし後者の場合は,その本来の意図が〈正常な形〉の錯視効果にあるので,その意図が果たされたときには,歪形は視覚的には存在しないことになる。近代におけるデフォルマシヨンは,後期印象主義以後の主観的な芸術の基本的表現手段となり,ドイツ表現主義ではとくにこの傾向が著しかった。しかし非対象・抽象芸術においては,〈正常な形〉の基準がないために,この語は意味を失う。それと同時に過去において〈正常な形〉とされた〈自然らしい〉客観的形体も,基準としての価値を揺るがされ,デフォルマシヨンという語の貶(おとし)めた意味はほとんどなくなった。今日この語が日本で美術用語として欧米より重視されるのは,この語がおそらく外来語であるからにすぎないと思われる。
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百科事典マイペディア 「デフォルマシヨン」の意味・わかりやすい解説

デフォルマシヨン

美術において,対象の変形,歪曲(わいきょく)を意味するフランス語。動詞形デフォルメも多用される。主観を重視する近代美術に顕著にみられる。

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