日本大百科全書(ニッポニカ) 「静穏保持法」の意味・わかりやすい解説
静穏保持法
せいおんほじほう
国会議事堂、外国公館、政党事務所などの周辺での拡声器使用を規制する法律。正式名称は「国会議事堂等周辺地域及び外国公館等周辺地域の静穏の保持に関する法律」(昭和63年法律第90号)。自由民主党提案の議員立法で、1988年(昭和63)12月に成立した。「国会の審議権の確保と良好な国際関係の維持」を目的とした法律である。従来、軽犯罪法などで騒音を取り締まる場合、厳密な音量測定が必要であった。静穏保持法の成立で、警察官は自らの判断で拡声器使用をやめるよう命じることができるようになった。違反した場合、6か月以下の懲役または20万円以下の罰金を科せられる。本法の指定する恒常的な静穏保持地域は、国会周辺地域(東京都千代田区霞が関(かすみがせき)2、3丁目、永田町(ながたちょう)1、2丁目)となる。また、外国公館を中心に半径約500メートルの地域や外国要人の宿舎周辺地域は、外務大臣が地域と期間を定めて指定する。政党事務所周辺などは、衆議院議長または参議院議長のいずれかの要請があった場合、内閣総理大臣が地域と期間を限って指定する。指定時には、政府は地域と期間を官報で告示しなければならない。なお、選挙期間中や災害・事故発生時、国や地方公共団体の業務を行うために拡声器が必要な場合には同法は適用されない。
静穏保持法は1970年代から立法作業が始まったが、憲法の定めた権利を侵しかねないとして立法が見送られてきた。しかし1987年、次期の総理大臣候補であった竹下登(たけしたのぼる)に対し拡声器を使った街頭宣伝で褒め上げて嫌がらせをする皇民党事件が起き、また、1988年12月にはソビエト連邦の外務大臣(当時)シェワルナゼの来日が予定されたこともあって、急遽(きゅうきょ)成立した経緯がある。静穏保持法の初適用は、シェワルナゼの来日時にソ連大使館周辺で街頭宣伝活動を行った右翼団体構成員であった。その後の適用は年間1件程度にとどまっている。2014年(平成26)8月、自由民主党はいったん、国会周辺でのデモや大音量での街宣活動を規制する新たな法制度を検討した。しかし原子力発電所の再稼動や集団的自衛権の行使容認に対する抗議行動の規制につながりかねないとの批判が起きたため、取り下げた。
[編集部]