非Hodgkinリンパ腫

内科学 第10版 の解説

非Hodgkinリンパ腫(白血球系疾患)

 非Hodgkinリンパ腫はHodgkinリンパ腫以外の悪性リンパ腫総称であり,多くの疾患単位から構成される.
病理組織分類
 非Hodgkinリンパ腫の病理組織分類は,発生母地となる免疫系の多様な細胞構成を反映し,悪性腫瘍の病理組織分類のなかでも最も複雑な分類とされる.
 1982年に発表されたWorking Formulation(WF)による,低,中,高悪性度の3段階の悪性度分類は,欧米白人に多いB細胞リンパ腫の予後を反映し,治療選択指針として有用であったため世界で汎用された.
 1994年に発表されたREAL分類と,その修正版である1999年に発表されたWHO分類第3版では,WF公表後の免疫学的表現型検索法や分子生物学の進歩に基づいて,新しい疾患単位を取り込み,リンパ系腫瘍全体の各疾患単位を細胞起源に基づいて位置づけた.表14-10-13に2008年に公表されたWHO分類第4版を示す.多くの修正や新しい疾患単位が取り込まれているものの,分類に関する基本方針は第3版と同様である.
疫学・病因
1)日本人のリンパ系腫瘍の疫学的特徴:
節外性リンパ腫(大半がB細胞リンパ腫)の頻度は米国白人とほぼ同様であるのに対し,Hodgkinリンパ腫,濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma:FL)などの節性リンパ腫の発生頻度が低い.
2)米国における非Hodgkinリンパ腫の増加傾向:
2012年の1年間に,米国では約70130例の非Hodgkinリンパ腫患者の新たな発生と約18940例の死亡が推定されている.20歳以上のすべての年代で非Hodgkinリンパ腫の発生頻度が上昇しており,特に高齢者における増加傾向が顕著である.
3)非Hodgkinリンパ腫発生を増加させる因子:
感染性因子としては,EBウイルス, ヒトT細胞白血病ウイルス1型(human T-lymphotropic virus type-1:HTLV-1),ヒトヘルペスウイルス(human herpesvirus-8:HHV-8),Helicobacter pyloriなどが,化学的および物理的因子としては化学療法,放射線治療などがあげられ,免疫不全状態における非Hodgkinリンパ腫の増加が知られている.先天性免疫不全症候群のほか,AIDS,免疫抑制薬投与中の臓器移植患者,同種造血幹細胞移植患者などで非Hodgkinリンパ腫の合併頻度が高い.また,Sjögren症候群慢性甲状腺炎などの自己免疫疾患局所でのmucosa-associated lymphoid tissue(MALT,粘膜関連リンパ組織)リンパ腫の高頻度の発生が知られている.
4)疫学的特徴を示す代表的な非Hodgkinリンパ腫の疾患単位:
 a)成人T細胞白血病・リンパ腫(adult T-cell leu­kemia-lymphoma:ATL):RNAレトロウイルス,HTLV-1のキャリアは,南西日本,カリブ海沿岸,西アフリカなどに偏在し,キャリア率は加齢とともに上昇する.HTLV-1キャリアは日本全体で約100万人,その半数が九州,沖縄に在住している.
 b)nasal NK/T-cell lymphoma:日本を含む東アジアで発生頻度が高く,全例にEBウイルスが関与している.化学療法単独や放射線療法単独の成績は不良であるが,近年,両者同時併用による良好な治療成績が報告された.
 c)免疫不全患者に発生する日和見リンパ腫:AIDS患者や免疫抑制薬投与中の臓器移植患者に発生するB細胞リンパ腫で高率にEBウイルスが関与する.AIDS患者に合併するリンパ腫の一部にHHV-8が関連しており,体腔液貯留で発症という特徴的な病態を示し(primary effusion lymphoma),全例EBウイルス陽性である.
 d)慢性結核性膿胸に続発するB細胞リンパ腫(pyothorax-associated lymphoma:PAL):日本からは多数例の報告があるが,欧米からはほとんど報告がない. EBウイルスの関与が判明している.
 e)濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma:FL):t(14;18)(q32;q21)に伴うbcl-2遺伝子再構成が発症に関与する.欧米白人に比し日本人では発生頻度が低いとされてきたが,近年,増加傾向が認められる.
染色体異常と癌関連遺伝子
 B細胞腫瘍に認められる多くの染色体転座にかかわっているのが免疫グロブリン重鎖(IgH)の遺伝子座である14q32であり,IgL-κ鎖の2p11とIgL-λ鎖の22q11も転座にかかわる.もう一方の染色体の転座部位に癌関連遺伝子が存在し,濾胞性リンパ腫におけるbcl-2(18q21),マントル細胞リンパ腫(mantle cell lymphoma:MCL)におけるbcl-1(11q13)などが代表的なものである.
 p53遺伝子変異が成人T細胞白血病リンパ腫,濾胞性リンパ腫,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)などのdisease progressionに関与し,予後不良因子になることが報告された.また,DNAマイクロアレイ法を用いた遺伝子発現プロファイルに基づき,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫が胚中心B細胞型と活性化B細胞型に大別され,予後が異なることが報じられた.
診断
1)質的診断:
非Hodgkinリンパ腫はリンパ節だけではなく全身諸臓器に発生する.節外性リンパ腫の細胞起源,悪性度,臨床病態には,発生臓器による一定の特徴がある.眼,甲状腺,唾液線にはMALTリンパ腫の頻度が高く,皮膚はT細胞リンパ腫が多く,ほかの臓器に発生するリンパ腫の大半はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫である.
2)病変の広がりの検索(病期診断):
身体所見に加えて,胸部X線,頸部~鼠径部CT,上部消化管内視鏡検査,骨髄穿刺/生検などにより病変の広がりを検索する.近年,PETの有用性が報告されている.病期分類としてはAnn Arbor分類が一般的である(表14-10-14).
治療
1)非Hodgkinリンパ腫のおもな疾患単位の治療
a)aggressive lymphoma:WFによる中高悪性度のB細胞リンパ腫と末梢T細胞リンパ腫を指す.
 i)限局期aggressive lymphoma:Ann Arbor病期分類によるⅠ期と連続したⅡ期を指し,病変が通常のIF-RTの一照射野内にとどまる場合を意味する.
 化学療法施行後のIF-RTもしくは化学療法単独により高率の治癒が期待できる.化学療法はドキソルビシン(DOX)とシクロホスファミド(CPA),ビンクリスチン(VCR),プレドニゾロン(PSL)からなるCHOP療法が推奨されるが,大半を占めるびまん性大細胞型B細胞リンパ腫ではキメラ型抗CD20抗体リツキシマブを併用したR-CHOP療法が標準的化学療法である.
 ⅱ)進行期aggressive lymphoma:進行期とは,Ⅲ,Ⅳ期に加えて,非連続的Ⅱ期もしくは巨大腫瘤(CTスキャン水平断での最大腫瘤径10 cm以上もしくは胸部X線撮影PA方向での胸郭幅の1/3以上の縦隔腫瘤)を伴うⅡ期を意味することが多い.進行期aggressive lymphomaは,R-CHOP療法などの標準的な併用化学療法により約半数の患者が治癒可能である.
 1993年に,DOXを含む併用化学療法を施行された3000例以上のaggressive lymphomaにおける予後因子解析結果が報告された.年齢,病期,節外病変数,performance status, LDHの5つが有意な予後因子であり,これらの組み合わせによる国際予後因子指標(international prognostic index:IPI)が提唱され,4つのリスクグループが報告された(The International Non-Hodgkin’s Lymphoma Prognostic Factors Project,1993)(表14-10-16).
 2002年に,未治療高齢DLBCL患者を対象としたリツキシマブとCHOP療法併用(R-CHOP療法)とCHOP療法単独との第Ⅲ相試験結果が報告され,R-CHOP療法のevent-free survival(EFS)とoverall survivalはCHOP療法単独より有意にすぐれていた(図14-10-15)(Coiffierら,2002).その後の臨床試験により,R-CHOP療法が,若年患者を含めてすべての病期のDLBCLに対する標準的化学療法として確立された.
b)indolent B-cell lymphoma(低悪性度B細胞リンパ腫):濾胞性リンパ腫,MALTリンパ腫を主体とするmarginal zone B-cell lymphoma(MZBCL),small lymphocytic lymphoma, lymphoplasmacytic lymphomaなどから構成される.
 Ⅰ,Ⅱ期ではIF-RTが一般的な治療選択であり,約50%の患者に10年無病生存が期待できる.
 Ⅲ,Ⅳ期では,化学療法による治癒が困難であることもあって標準的治療が確立されていないが,無症状かつ低腫瘍量,非進行性の場合はリツキシマブ単独もしくはwatchful waiting(無治療経過観察)が,それ以外ではリツキシマブと化学療法併用が推奨される.初回治療としてリツキシマブと併用する化学療法にはCVP療法(CPA, VCR, PSL), CHOP療法,フルダラビン,ベンダムスチンが用いられるが,リツキシマブとベンダムスチン併用療法の有効性がR-CHOP療法を上回るとする第Ⅲ相試験結果が報告された.
 再発・再燃indolent B-cell lymphomaに対する治療選択としては,リツキシマブ単独,リツキシマブを含む化学療法,フルダラビン,ベンダムスチンなどの選択肢があり,フルダラビンとベンダムスチンはリツキシマブとの併用が可能である.
c)T細胞性リンパ芽球性リンパ腫(T-cell lymphoblastic lymphoma:T-LBL):
若年男性に多く,高率に縦隔腫瘤,骨髄浸潤,中枢神経浸潤を伴う高悪性度リンパ腫で,T細胞性急性リンパ性白血病(T-cell acute lymphoblastic leukemia:T-ALL)と一連の疾患である.aggressive lymphomaに対する通常の化学療法では治癒率が低く,成人急性リンパ性白血病の治療と同様に,中枢神経浸潤に対する予防的処置を含む多剤併用による強力な治療レジメンが推奨される.
d)Burkittリンパ腫:急速に進行し,骨髄浸潤や中枢神経浸潤をきたしやすい高悪性度B細胞リンパ腫であり,B-ALLと一連の疾患である.CODOX-M/IVAC療法,hyperCVAD療法などの用量強度を高めた化学療法による良好な治療成績が報告されている.
e)成人T細胞白血病リンパ腫:【⇨14-10-13)】
2)非Hodgkinリンパ腫に対する救援化学療法:
aggre­ssive lymphomaの約半数とindolent B-cell lymphomaの大半は化学療法奏効後に再発・再燃し,救援化学療法の対象となる.DHAP療法,ESHAP療法,EPOCH療法,ICE療法などがaggressive lymphomaに対する代表的な救援化学療法レジメンである.これらは,初回治療として頻用されているVCR, DOX, CPAなどと非交差耐性の抗癌薬であるシスプラチン,シタラビンや,エトポシド,大量のステロイドを含んだレジメン(DHAP療法,ESHAP療法)や,VCR, DOXの投与方法を少量持続点滴に変えることにより薬剤耐性打破をねらったもの(EPOCH療法)である.B細胞リンパ腫では上記レジメンにリツキシマブを併用することが一般的である.
3)AHSCT併用HDC:
救援化学療法が奏効したaggressive lymphomaで,65歳以下で臓器機能が保たれている初回再発例ではAHSCT併用HDCが第一選択と考えられている.
 DLBCLなどaggressive lymphomaの未治療患者を対象として,通常量化学療法とHDCを比較した第Ⅲ相試験が複数施行されたが,未治療aggressive lymphomaの初回治療としてのHDCの役割は確立されていない.[飛内賢正]
■文献
Coiffier B, Lepage E, et al: CHOP chemotherapy plus rituximab compared with CHOP alone in elderly patients with diffuse large-B-cell lymphoma. N Engl J Med, 346
: 235-242, 2002.The International Non-Hodgkin’s Lymphoma Prognostic Factors Project: a predictive model for aggressive non-Hodgkin’s lymphoma. N Engl J Med, 329: 987-994, 1993.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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