六訂版 家庭医学大全科 「慢性甲状腺炎」の解説
慢性甲状腺炎(橋本病)
まんせいこうじょうせんえん(はしもとびょう)
Chronic thyroiditis (Hashimoto's disease)
(内分泌系とビタミンの病気)
どんな病気か
慢性甲状腺炎は1912年、橋本
原因は何か
本来は外部から入り込んだ異物に対して起きる免疫反応が、自分の体の細胞に対して起きて甲状腺の細胞が壊れ、細胞と細胞の間に線維化が起こる
症状の現れ方
甲状腺は予備能力の大きな臓器なので、少しくらい破壊されても甲状腺ホルモンを作る能力が低下することはありません。しかし、破壊が甲状腺全体に広がると機能低下症になります。炎症といっても、何年もかかってゆっくりと起こる炎症なので、痛みや発熱が起こることはありません。
甲状腺腫は全体にはれていて硬く、表面はこぶ状あるいは小
甲状腺の機能も大半は正常なので、橋本病というだけではとくに自覚症状もなく、治療の必要もありません。しかし、加齢とともに
甲状腺機能低下症になると寒がり、便秘、記憶力・計算力の低下、眠気などを自覚するようになり、さらに低下症が進むと顔面がはれぼったく、むくむようになります。慢性甲状腺炎で甲状腺機能低下症になった例でも、時に甲状腺の機能は回復することがあります。無痛性甲状腺炎といって、逆に一過性に甲状腺ホルモンが増えることもあります。
検査と診断
慢性甲状腺炎はもともと甲状腺組織を顕微鏡で見て発見された病気なので、組織所見を見ないと確定診断はできません。しかし、通常は抗甲状腺抗体が陽性で、硬い甲状腺腫が認められ、バセドウ病が否定できれば慢性甲状腺炎と考えて経過をみることになります。
甲状腺腫が大きい時は、一応、
治療の方法
甲状腺機能が正常で甲状腺腫が小さい時は、とくに治療は行いません。甲状腺機能低下症の時は、甲状腺ホルモンを投与します。
甲状腺刺激ホルモンだけが高値で、甲状腺ホルモンの値が正常なものを
病気に気づいたらどうする
橋本病が医療費の補助の対象になっている県もあるので、難病ではないかと心配される患者さんがいます。しかし決して難病ではなく、甲状腺ホルモンの測定を時々受け、ホルモンが低下しているということがわかれば、甲状腺ホルモンの服用を始めるだけでよいのです。橋本病と診断されても、あまり心配はしないようにしてください。
阿部 好文
慢性甲状腺炎(橋本病)
まんせいこうじょうせんえん(はしもとびょう)
Chronic thyroiditis (Hashimoto's disease)
(子どもの病気)
どんな病気か
甲状腺に慢性的に炎症が生じるもので、20~30代の女性に最も頻度が高いですが、思春期の女子にもみられます。
原因は何か
甲状腺のサイログロブリンやペルオキシダーゼなどの自己抗原に対する自己免疫反応が病気の原因です。遺伝因子や環境因子が関係します。
症状の現れ方
思春期には前頸部のはれで発見されることが多く、甲状腺機能は多くの場合正常です。時に機能低下や一過性の機能亢進を示すこともあります。甲状腺機能低下症の症状は、便秘、体重の増加、
また、慢性甲状腺炎をもつ女性が妊娠した場合、出産後母親の約半数に機能亢進や機能低下が発症すると報告されており、注意が必要です。
検査と診断
マイクロゾームテストやサイロイドテストといった自己抗体の検査が陽性であれば、甲状腺に炎症があると考られます。甲状腺の腫大の有無は、視診と超音波検査によって行います。血中甲状腺刺激ホルモン(TSH)、遊離トリヨードサイロニン(FT3)、遊離サイロキシン(FT4)を調べます。
治療の方法
TSHが上昇(一般に10IU/ml以上)した場合、甲状腺ホルモン薬のレボチロキシンナトリウム(チラーヂンS錠、散)を内服します。
病気に気づいたらどうする
内分泌疾患の専門外来をもつ小児科を受診します。
関連項目
杉原 茂孝
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報