日本大百科全書(ニッポニカ) 「領主領」の意味・わかりやすい解説
領主領
りょうしゅりょう
seigneurie フランス語
領主が所有権と主権をそこに行使する土地の総体で、西欧封建社会の基礎となる経済的・政治的枠組みをさす。大きさや形態はさまざまだが、典型的な領主領はシャテルニーChâtellenie(フランス語、城主領)で、それは本来は一つの城と、いくつかの村を含み、城の守備にあたる家臣の生活に必要な小封土(騎士領)と、城主あるいはその代官が統轄する直轄地からなる。
封建的階層制の観点からすると、領主領は封土であり、諸侯領や司教領のような大封土や大聖職禄も、それを構成する単位所領はこうしたシャテルニーであった。シャテルニーは、領主の一族間の相続分割、代官職の世襲や領主権の簒奪(さんだつ)、縁辺部の騎士領に多くみられる自立化などの作用により、その統一性を維持できず、やがては小規模ないくつもの城と小領地に細分割される傾向にあった。
領主の直轄地は、賦役や家内的労働力によって耕作される領主直営地と、賦役や地代(現物または貨幣)の義務を負う農民保有地という、フランク時代の古典荘園(しょうえん)(ビラ)の構成要素の存続がみられる。このほか、全領民の用益にゆだねられる森林、原野、河川などの共同地があった。12世紀ごろには、概して領主直営地は縮小し、賦役は軽減され、古典的な荘園体制は崩壊の方向をたどる。
封建時代の領主は、そうした土地領主制の後退を、新たなバンBann(ドイツ語)領主制の発展によって償うことができた。バン権の内容は複雑であるが、政治的な上級支配権と、経済的な下級支配権に大別される。前者は刑事事件を扱う裁判権、城に象徴される軍事罰令権、治安維持のための警察権などで、この部分はやがて王侯権力によって吸収・統合される。後者は民事的訴訟にかかわる裁判権、援助金などの直接税、鍛冶(かじ)場・水車・かまど・圧搾器などの領主独占による強制使用料(バナリテbanalité)などの経済的収益権が主たるもので、この部分は、シャテルニーの解体によって分出する小領主層(村の領主)に、広く分有されるところとなった。
[井上泰男]