香米(読み)においまい

改訂新版 世界大百科事典 「香米」の意味・わかりやすい解説

香米 (においまい)

インド型イネ系統の一種とされる米で,香りに特徴があることから,〈かばしこ〉〈鼠米(ねずみごめ)〉〈じゃこう米〉などとも呼ばれる。明治時代までは全国的に栽培されていたというが,現在はごく一部の地域の特定農家で自家用に栽培しているにすぎない。1630年(寛永7)ころに成立したといわれる《清良記(せいりようき)》第7巻(親民鑑月集)に薫早生(においのわせ)とか香餅(においもち)とあるのが,文献にみえる最古のものである。一般に早稲種であり,山間水田冷水のかかる水田の畦まわりに栽培されることが多かった。熊本県球磨郡五木村では,におい米と呼んで第2次大戦後まではこの稲だけを栽培していたが,水田で育成中であっても強い香りを放ったという。広島県山県郡戸河内町(現,安芸太田町)八幡地方では〈かばしこ〉といい,昭和初年まで好んで栽培していた。ところが香りの強い稲であったため,道行く人がこの香りを嫌うようになったので,島根県あたりから香りのしない稲を移入して,しだいに作らなくなったという。大分県や長崎県など現在でも栽培している農家の話によると,香米はふつうの日本型の米に10%程度混入して炊くと香りも味もよいが,香米だけを炊いた飯はまずく,ネズミ小便麝香(じやこう)虫の香りがするという。香米は第2次大戦前には,福島,茨城両県で正月高島田などに髪を結った芸妓がその穂を髪飾にするという特殊な用途のために栽培されていた。青いわらの色とかすかににおう香米とがもてはやされたからである。米飯の香りに敏感であった日本人の特殊な感覚が,香米の歴史の中に秘められているわけだが,その詳細な研究がなされないまま,日本の稲作史上から姿を消してしまった。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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