改訂新版 世界大百科事典 「高倉下」の意味・わかりやすい解説
高倉下 (たかくらじ)
記紀の神武天皇条にあらわれる人物。神武天皇東征の際,熊野において化熊が出現し,天皇の軍を惑乱させてしまう。時に土豪,高倉下が一口(ひとふり)の横刀(たち)を神武に献ずると,天皇は覚醒しその刀をもって荒ぶる神(化熊)を切り倒したという。刀の由来をたずねたところ,高倉下の夢に天照大神(あまてらすおおかみ)と高木(たかぎ)神があらわれ,葦原中国(あしはらのなかつくに)の混乱を平定するため,建御雷神(武甕槌(たけみかづち)神)の代りとして刀を下すとあり,翌朝その倉を見るとこの刀があった。よって夢の教えのままに献上したのだという。この刀は〈フツノミタマ〉といい,大和の石上(いそのかみ)神宮に納められたとも語られている。石上神宮は物部(もののべ)氏の祭る神でここにはさまざまな鎮魂の神宝が蔵されていた。そして物部はまた鎮魂の呪法をもって宮廷に仕えていたから,そうした職掌の起源譚が高倉下の話であろう。高倉下の名は石上神宮の神宝を収める〈神庫(ほくら)〉からの連想とみなされる。
執筆者:阪下 圭八
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報