日本神話にみえる神の名。記では建御雷神などとも記す。雷電の神。雷電は剣のきらめきを連想させるところから,別名を建布都(たけふつ)神とも豊布都(とよふつ)神ともいう。〈フツ〉は物を断ち斬る擬態語。《古事記》によれば,イザナキノミコトが火神迦具土(かぐつち)神(軻遇突智)を斬った際に剣に着いた血が岩群に〈走りつきて〉成ったとされる。この神は葦原中国(あしはらのなかつくに)平定の切札として出雲に天降(あまくだ)り,十掬剣(とつかのつるぎ)を波に逆さに突き立て,その剣の先にあぐらをかいて大国主(おおくにぬし)神に国譲りをさせたのである(国譲り神話)。その姿は,石や岩,山や水などの自然物に象徴される国津神(くにつかみ)を威嚇するのに十分であり,剣は悪霊ざわめく葦原中国を平定する武力と権威の象徴でありえた。したがってタケミカヅチの剣は熊野で難渋していた東征中の神武天皇に降(くだ)し与えられることにもなる。この剣を〈フツノミタマ〉という。のちに藤原氏の台頭によってタケミカヅチは鹿島神宮の祭神となるが,それは朝廷の東国経営に対して神的な権威を付与するものであった。
執筆者:武藤 武美
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建御雷神とも記す。記紀神話に出てくる剣神。国譲りの使者となって大国主命(おおくにぬしのみこと)に国譲りを承諾させ、また神武(じんむ)天皇が熊野(くまの)上陸の直後に失神した際に、命ぜられて平国の剣の韴霊(ふつのみたま)を降(くだ)し、建国の事業を助けた。その剣神である証(あかし)は、自らのかわりに剣を降したり、国譲り交渉で剣先扶坐(ふざ)の姿をとったりするところに明らかである。しかしその本源は甕(みか)ツ霊(ち)であり、それは伊弉諾尊(いざなぎのみこと)の火神殺害の神話で、甕(みか)ハヤ霊(ひ)とともに、あるいはその子として初現することから推定できる。この神の剣神化により、物部(もののべ)氏の剣神経津主神(ふつぬしのかみ)はその地位を失っていくが、経津主神は『古事記』にはまったく現れない。なお、この神はのちに鹿島(かしま)神宮の主神となり、藤原氏の氏神として奈良の春日(かすが)神社にも祀(まつ)られた。
[吉井 巖]
…(4)かくして葦原中国の主となったオオクニヌシに対し高天原より国土を天津神の子に譲れとの交渉がはじまる。交渉は両三度に及ぶが,ここでのオオクニヌシは生彩のない受動的な神にすぎず,使神の武甕槌神(たけみかづちのかみ)に対して事代主神(ことしろぬしのかみ),建御名方神(たけみなかたのかみ)(ともにオオクニヌシの子)ともども屈服し,国譲りのことが定まる。その際の条件にオオクニヌシは壮大な社殿に自分をまつることを請いそこに退隠することになったが,これは出雲大社の起源を語ったものである。…
…旧官幣大社。祭神は武甕槌(たけみかづち)神(建御雷神)。《常陸国風土記》には649年(大化5)に神郡がおかれ,そこにあった天の大神の社,坂戸の社,沼尾の社をあわせて〈香島の天の大神〉といい,〈豊香島の宮〉と名づけられ,また崇神天皇のとき大刀,鉾,鉄弓,鞍などの武具が奉られたと記されている。…
※「武甕槌神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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