「もの」は兵器の意かというが明らかでなく、「ふ」も未詳だが、上代、軍事警察の任に当たった「もののべ(物部)」と関係の深い語と考えられる。
高知県東部、香美郡(かみぐん)にあった旧村名(物部村(そん))。現在は香美市の東部を占める地域。徳島県と接する。旧物部村は、1956年(昭和31)槇山(まきやま)、上韮生(かみにろう)の2村が合併して成立。2006年(平成18)土佐山田、香北(かほく)2町と合併して市制施行、香美市となった。国道195号が通じる。地域は物部川の上流にあたる槇山川・上韮生川流域に展開し、平地に恵まれず、かつては傾斜地での焼畑農業や、役牛飼育が盛んであった。林業を主産業とし、林野率約90%でスギ、ヒノキの用材のほか、コウゾ、ミツマタの産地でもある。また、ユズの栽培も盛ん。中心地大栃(おおどち)は槇山川と上韮生川の合流地にあり、付近には永瀬ダムがある。北部の三嶺(さんれい)(1894メートル)、白髪(しらが)山などの山々と別府(べふ)、西熊などの渓谷は剣山(つるぎさん)国定公園と奥物部県立自然公園域。三嶺・天狗塚(てんぐづか)のミヤマクマザサおよびコメツツジ群落は国の天然記念物。べふ峡温泉がある。「土佐の神楽(かぐら)」は国指定重要無形民俗文化財。
[大脇保彦]
『『続物部村史』(1975・物部村)』
古代朝廷の軍事,刑罰に関与した人々。全国各地に散在し,とくに北九州に多く,一部は朝鮮半島にも移住した。大和朝廷時代の内乱,外征に勇名をはせ,反乱者,捕虜などの断罪にもあたった。大化改新後はその遺制として,囚獄司に40人,衛門府に30人,東西市司に各20人が置かれ,物部丁という仕丁をひきいて刑罰の執行をするが,この物部や物部丁は一般良民から選ばれる。《万葉集》では物部を〈もののふ〉とよみ,〈物部の八十(やそ)少女らが……〉のように枕詞として使っている。また巻二十の〈秋野には今こそ行かめもののふのをとこをみなの花にほひ見に〉では,この項でいう物部だけでなく,しかるべき身分の総称として使われているようである。後世,武士を〈もののふ〉とよぶが,いつからそうよばれたか明らかでない。
執筆者:青木 和夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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古代,物部連(むらじ)に統率され軍事・警察・刑罰に従事した部民とするのが通説。「もののふ」と読んで武人一般をさすこともある。律令時代には諸国に多数の物部姓の人々がおり,物部郷(里)も20に及ぶ。6世紀に滅びた物部氏の部民がこれほど多かったかは疑問で,また部民であったとしても多くはふつうの農民で,中央の物部氏とそれに従う武人たちの経済的基盤になっていたとみるべきであろう。律令制下では刑部(ぎょうぶ)省の囚獄司に伴部(ともべ)である物部40人が所属して罪人の刑罰を担当し,そのもとに仕丁から選ばれた物部丁20人が武器を帯して獄を守った。衛門府にも内の物部30人がおり,東市・西市には各20人の物部が属して非違(ひい)を禁察した。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…その上部に官人の統率者としての臣(おみ)・連(むらじ)・伴造(とものみやつこ)という階層,その下に実務を担当する百八十部(ももあまりやそのとも),そして各職務に応じ生産・貢納に従う品部(しなべ∥しなじなのとも)という,上下の統属関係にもとづくピラミッド型の官司制を成立させたと考えられる。 まず伴として,畿内の中小豪族を任ずる殿部(とのもり)(天皇の乗輿,宮殿の調度,灯火をつかさどる),水部(もいとり)(供御の清水や氷をつかさどる),掃部(かにもり)(殿内の掃除をつかさどる),門部(かどもり∥かどべ)(宮殿の諸門の守衛をつかさどる),蔵部(くらひと)(内蔵,大蔵の出納をつかさどる),物部(もののべ)・佐伯部(さえきべ)(軍事・警察,刑罰をつかさどる)などがあった。部として,畿内やその周辺に居住する帰化氏族,その他を任ずる錦織部(にしこり∥にしごりべ)(絹織物の生産に従う),衣縫部(きぬぬい∥きぬぬいべ)(衣服の縫製に従う),鍛冶部(かぬち∥かぬちべ)(鉄と兵器の生産に従う),陶作部(すえつくり∥すえつくりべ)(陶器の製作に従う),鞍作部(くらつくり∥くらつくりべ)(馬具の製作に従う),馬飼部(うまかい∥うまかいべ)(馬の飼育に従う)などがあった。…
…古代の有力氏族。姓(かばね)は連(むらじ)で,軍事・警察のことをつかさどる物部の伴造(とものみやつこ)。造(みやつこ),首(おびと)などの姓をもつ配下を従え〈物部八十氏〉とも称された。…
※「物部」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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