日本大百科全書(ニッポニカ) 「高分子物理学」の意味・わかりやすい解説
高分子物理学
こうぶんしぶつりがく
polymer physics
ゴム、合成繊維、プラスチック、生体高分子など高分子物質の物性や構造を調べる物理学の一部門。1930年代なかば、シュタウディンガーらによって高分子の概念が確立されて以来、まず、ゴム弾性論、高分子溶液論(フローリーらによる)などの分野が急速に発展し、1950年代なかばころまでには高分子物理学全体系の基本が確立された。今日では高分子化学とあわせて高分子学polymer scienceといわれる。
高分子物理学は、ゴム弾性、粘弾性、溶液物性、誘電分散、光散乱、高分子固体構造(結晶・ガラス転移)、生体高分子(タンパク質・核酸高次構造、ヘリックス‐コイル転移)などの諸物性にわたり、とくに生体高分子を対象とする領域は、今日では生化学、分子生物学などとともに生物物理学として独自の展開をみせている。
高分子物質においては、化学的単位構造が共有結合でつながった規則的な繰り返しの鎖状構造(高分子鎖)が、網目構造、からみあい、ランダムコイル状態、ヘリックス構造などさまざまな形態で存在し、それに対応して高分子物質の多様な物性が現れる。この高分子鎖の存在形態は、その単位構造(セグメント)のブラウン運動、および主鎖・側鎖、あるいは溶媒分子などの間の相互作用で決まってくる。この過程・状態を規定する基本法則をいっそう明らかにすることが一貫して高分子物理学の中心課題となって今日に至っている。
[荒川 泓]
『斉藤信彦著『高分子物理学』(1967・裳華房)』▽『中条利一郎・河合徹著『高分子物理化学』(1973・共立出版)』▽『ピエール・ジル・ド・ジェンヌ著、高野宏・中西秀訳『高分子の物理学』(1984・吉岡書店)』▽『高分子学会編『高分子機能材料シリーズ』全9巻(1990~1993・共立出版)』▽『田中文彦著『高分子の物理学』(1994・裳華房)』▽『G・R・ストローブル著、深尾浩次・宮本嘉久・宮地英紀・林久夫訳『高分子の物理――構造と物性を理解するために』(1998・シュプリンガー・フェアラーク東京)』▽『西村紳一郎・畑中研一・佐藤智典・和田健彦著、講談社サイエンティフィク編『生命高分子科学入門――生物に学び生物を超える』(1999・講談社)』▽『土井正男・小貫明著『高分子物理・相転移ダイナミクス』(2000・岩波書店)』▽『高分子学会編『高分子科学と物理学とのキャッチボール――エレクトロニクス・マルチメディアを支える高分子』(2000・エヌ・ティー・エス)』▽『蒲池幹治著『高分子化学入門』(2003・エヌ・ティー・エス)』