二つの原子が、電子対(逆向きのスピンをもつ1組2個の電子)を共有することによって生ずる化学結合をいう。電子対結合ともいう。また、イオン結合を異極結合というのに対し、等極結合ということもある。そのほか2電子ではなく、1電子あるいは3電子が共有されるような場合をも含めていうことがある。
化学結合はすべて電子が原因となって生成するわけであるが、形式的にいえば、結合する2原子が互いに1個ずつの電子を出し合って電子対をつくり、これが完全に一方に移ってしまうのがイオン結合であり、二つの原子のちょうど中間にあるのが共有結合であるといえる。イオン結合や共有結合の理論的取扱いには、このような両極端の状態を考えるが、実際の化合物中での化学結合では、そのような極端ではなくむしろそれらの間にあってどちらかに偏っているとしたほうがよい場合が多い。したがって共有結合的要素の強い化学結合を単に共有結合といっている。
また共有される電子対が、形式的に二つの原子から供給されたものではなく、一方の原子からのみ供給されたものであるとき、その共有結合を配位結合(半極性結合)といって区別している。
[中原勝儼]
『藤谷正一・木野邑恭三・石原武司著『化学結合の見方・考え方』(1987・オーム社)』▽『関崎正夫著『わかりやすい物理化学』(1988・共立出版)』▽『山内淳・平山鋭・谷口仁・東長雄著『物理化学の基礎』(1989・朝倉書店)』▽『ジェームズ・E・ブラディ、G・E・ヒューミストン著、若山信行・一國雅巳・大島泰郎訳『ブラディ 一般化学』上(1991・東京化学同人)』▽『山本嘉則編著『有機化学 基礎の基礎――100のコンセプト』(1997・化学同人)』▽『米山正信著『化学のドレミファ2 イオンのことがわかるまで』(1997・黎明書房)』▽『川端潤著『ビギナーズ有機化学』(2000・化学同人)』▽『一國雅巳著『基礎無機化学』改訂版(2008・裳華房)』
電子対結合ともいう。化学結合の代表的な様式の一つで,原子と原子の間に形式的に最外殻の電子が1~3組の電子対をつくっているとみなされ,しかもその電子がどちらの原子に所属するともいえず,むしろ両原子に(さらに分子内の他の原子にまで)共有されているとみなされる結合。電子が両原子に均等に共有されていれば,等極結合または無極性結合とも称する。しかし,共有結合も,もう一つの代表的な結合であるイオン結合も,極限的な結合様式として頭の中で考えているもので,実在の結合は両者の中間の性格をもっている。とくに異種の原子間の結合では,電子対の電子密度分布は電気陰性度の大きい原子のほうに偏っている。なお電子対の数によって単結合,二重結合,三重結合と区別することがある。記号としては通常実線で表すが点表示を用いることもある。たとえば塩化水素HCl,エチレンC2H4の場合は,次のように表記する。
共有結合は大部分の有機化合物の結合様式であるが,無機化合物にも例は多く,
ダイヤモンド,シリコン,グラファイト等も典型的な共有結合の例である。なお,共有結合については量子論に基づく分子軌道法によって理論的な裏づけがなされているが,これによると内殻電子も分子軌道をつくり,対をなしていることになる。最初に形式的に最外殻の電子と記したのは,歴史的な理由によって内殻電子のこのような寄与を除外して考えることを意味している。また分子化合物の電荷移動型の結合も共有結合の概念を用いて説明されている。
執筆者:木下 實
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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水素分子のように,2個の原子が2個の電子を共有することによって形成される結合をいう.結合を線で表すことがあるが,電子対による結合であることを表す意味で,電子を点で表し,H:H,Cl:Clのような電子点式で示すこともある.同じ原子からなる二原子分子の結合では,電子の偏りがないから,この結合を等極結合とよぶことがある.これに対して,H:Clのように異なる原子間に形成される結合では,電子の偏りが生じ,結合にイオン性が現れる.このような結合は異極結合とよばれ,イオン結合と等極結合との混成として表される.電子対による結合が安定になることは,量子力学的な効果によるもので,電子の交換にもとづく交換エネルギーが主要な原因になっている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…この表記法は現在でもしばしば用いられ,ルイスの点表示と呼ばれる。I.ラングミュアはこのような考え方を八隅説,また結合を共有結合と呼んだ(1919)。ルイスの考え方の重要な点は,化学結合は原子と原子を結びつけている電子対であることを指摘したことにある。…
※「共有結合」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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