日本大百科全書(ニッポニカ) 「高杉一郎」の意味・わかりやすい解説
高杉一郎
たかすぎいちろう
(1908―2008)
小説家、翻訳家。静岡県生まれ。本名は小川五郎。静岡大学教授を経て和光大学教授。東京文理大学在学中に社会科学研究会事件に連座して退学となる。その後、改造社で『文芸』の編集を担当したが、改造社は司直の手で解散となり、高杉は召集されて北満州(中国東北)で敗戦を迎え、満4年シベリアで抑留生活を強いられた。その俘虜(ふりょ)体験をまとめた『極光のかげに』(1950)で注目を集めたが、その後は短編を散発的に発表したのみで、創作から遠ざかり、伝記や翻訳に力を注いだ。著書に『盲目の詩人エロシェンコ』(1956)、『中国の緑の星』(1980)、『ザメンホフの家族たち』(1981)、『夜あけ前の歌』(1982)など。翻訳にスメドレー『中国の歌ごえ』(1957)、同『中国は抵抗する』(1965)、クロポトキン『ある革命家の手記』(1979)、同『ロシヤ文学の理想と現実』(1985)など多数。ほかに『征(ゆ)きて還(かえ)りし兵の記憶』(1996)があり、記憶のなかに生きているシベリア体験と、孤独で長くて暗かった戦後の歩みを重ね合わせた痛恨の回想として注目を集めた。
[古林 尚]
『『盲目の詩人エロシェンコ』(1956・新潮社)』▽『『ザメンホフの家族たち』(1981・田畑書店)』▽『『夜あけ前の歌』(1982・岩波書店)』▽『『新版 極光のかげに』(冨山房百科文庫・岩波文庫)』▽『『中国の緑の星』(朝日選書)』▽『『征きて還りし兵の記憶』(岩波現代文庫)』